「何となく目指す」では受からないのが医学部入試
「今日は、勉強法を教える回というより、親子関係をどう考えるかという話です」と講演の冒頭で森氏はそう切り出した。
医学部受験は、学力だけで突破できる世界ではない。面接や小論文なども含め、受験を通して「人」としての土台が問われる。河合塾で日々対面授業を行い、生徒と向き合っている森氏は、現場で見えている“いまの受験生の状況”を共有しながら、親子のコミュニケーションを軸に「医学部合格へどう向かうか」を語った。
「医学部の合格は、通常の大学受験と比べても、難度も要求される覚悟も一段違います。何となく目指して受かるものではありません。結論を先に言います。想像力と忍耐です。これは主に、お父さんお母さんに向けての話です」
AIの発達で問われる「どんな医師になりたいのか?」
森氏がまず共有したのは、受験生を取り巻く環境の急激な変化だ。AIの進展、社会構造の変化、情報量の増大……。
大人は「夢を持て」と励ましながら、同時に「AIで仕事がなくなるかもしれない」とも語る。その矛盾が、子どもたちの不安を深めているという。
象徴的なのが、ある高校生の質問だ。
「先生、この仕事は10年後に残っていますか?」
かつて多かった「儲かりますか?」という問いではない。
“将来、仕事そのものが存在するのか”という不安。そこに、森氏は今の受験生の焦りを見ている。
そしてそれは、医学部志望者も例外ではない。
医療の世界にもAIが入り込み、診断や業務は効率化されている。そうした時代に「ただ医者になりたい」という思いだけでは、途中で立ち止まってしまう可能性もある。
だからこそ森氏は、受験の位置づけを問い直す。
医学部受験は「合格がゴール」なのではなく、自立のためのプロセスとして捉える必要がある。
「徹底的に考えてほしい。どういう人生設計がしたいのか。どういう医師になりたいのか」
医療現場では、負担の大きい分野で担い手不足が進んでいる一方、人気が集中する分野もある。働き方や価値観も多様化している。そうした現実のなかで、「医師になる」という選択をどう位置づけるのか。
受験勉強は、その問いと向き合う時間でもある。合格だけを目的にしてしまうと、達成後に燃え尽きる可能性もある。
だからこそ、医学部受験を考える段階から、親子で人生設計を話し合うことが重要だと森氏は強調する。
子どもの現状を理解する「想像力」
では、冒頭で森氏が述べた「親に求められる想像力」とは何か。そこで、森氏が挙げたのは、近年顕著になっている「受験生の現状」だ。
・鉛筆を持たない
・動画を1.5倍速で見終えることを勉強だと思っている
・タブレット学習が中心で筆圧が分からず、答案の字が薄くなる
こうした学習姿勢のままでは、医学部受験を突破するのは難しい。しかし森氏は、それを単に「怠けている」と片づけるのではなく、背景を理解したうえで立て直す必要があると強調する。
「答案を見て『ちゃんとやっているの?』と言う前に、ちゃんとやった結果そうなっている可能性も考えてほしい」
教育環境が大きく変わった世代であることを踏まえ、何が起きているのかを分析する。そのために必要なのが、親の想像力だ。
森氏は、親子で「分析会」を開くことを勧める。勉強量なのか、方法なのか、道具の問題なのか——冷静に整理する姿勢がなければ、医学部受験という長期戦は乗り越えられない。
想像力に続く、もう一つのキーワードが「忍耐」だ。
森氏が指摘するのは、家庭内で起こりがちなダブルスタンダードである。
「表向きは『大学名じゃない』と言いながら、自分の子どもになると急に基準が変わる」
親の言葉が揺れると、子どもは不安になる。だからこそ、意識的に家族会議を開き、受験の方針をすり合わせることが必要だ。
変化の時代を生き抜くために大事なこと
講演を通して森氏が示したのは、「変化の時代ほど、変わらないものを見極める」という視点だ。
・正確に読む
・正確に理解する
・正確に伝える
そして何より、受験を自立へのプロセスとして捉えること。
子どもを一方的に動かすのではなく、時代の変化を理解し、人生設計まで含めて一緒に考える。そのために必要なのが、親の想像力と忍耐なのである。
森 千紘
河合塾英語科講師

