高額な生命保険料が、毎月の貯金を静かに蝕んでいく――。一見、「貯蓄」と「保障」を両立できる魅力的な商品。しかしその実態は、一度契約すると抜け出しにくい、複雑な罠が仕掛けられていることも少なくありません。
月7万円、貯金が消えていく…手取り月26万円・大手食品メーカー総合職の28歳女性、謎の支出の正体は「生命保険」。証券の“営業担当者の名前”に絶望したワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

彼は結婚詐欺師?

その夜、ケイさんは彼を問い詰めました。スマホの画面をみせながら尋ねます。

 

「これが本当に、私たちのためなの?」

 

最初はいつものように商品のメリットを語っていた彼も、ケイさんの真剣な眼差しと、140万円以上もの具体的な損失額を前に、観念したようです。

 

「……ごめん」

 

彼は泣きながらすべてを告白しました。彼は結婚詐欺師などではありませんでした。ただ、営業成績が極度に悪化し、上司から「今月、目標を達成できなければ、この仕事は続けられないぞ」と、毎日激しく叱責されていたのです。追い詰められた彼は、最も身近で、自分を信頼してくれているケイさんに、手数料が最も高い商品を売るという、最低の選択をしてしまったのでした。

 

2人が下した、痛みを伴う“決断”

真実を知ったケイさんの心は、怒りよりも深い悲しみで満たされました。そして、2人は朝まで話し合い、一つの決断を下します。

 

まず、問題の保険は、140万円の損失を受け入れて即刻解約すること。これは、未来へ進むために支払う、あまりに高い“授業料”でした。そして、結婚は一度白紙に戻すこと。彼がいまの会社を辞め、2人がお金について対等に、そして完全にオープンに話せる関係を再構築できるまで、結婚はしない。それが、ケイさんが出した答えでした。

情が絡んだ金融商品の契約

ケイさんのように、恋愛感情や友情、信頼関係が絡むことで、正常な判断ができなくなり、経済的な苦境に陥るケースは少なくありません。そうならないために、私たちはなにをすべきなのでしょうか。

 

1.「情」と「契約」の境界線を引く

大前提として、恋人や親友、家族など、情緒的な繋がりが深い相手とのあいだで、高額な金融商品の契約をすることは極力避けるべきです。情と契約が混同されると、冷静な判断が難しくなるだけでなく、関係が悪化した際に解約しづらくなるなど、二重の苦しみを抱えることになります。

 

もし、身近な人から金融商品を勧められた場合は、「検討する時間をください」と必ず一度持ち帰り、必ず第三者の意見を聞くようにしましょう。

 

2.「なぜ?」と「もしも?」を繰り返す

相手が専門家であっても、鵜呑みは禁物です。「信頼しているから」と思考停止せず、納得できるまで質問を繰り返すことが、自分を守る最大の武器になります。

 

「なぜ」この商品が私に必要なのですか?

「もしも」払えなくなったら、どうなりますか?

「なぜ」ほかの商品ではなく、これが一番いいのですか?

「もしも」5年後に解約したら、いくら戻ってきますか?

「なぜ」あなたはこの商品を私に勧めるのですか?(手数料はいくらですか?)

 

これらの質問に、相手が感情的になったり、答えをはぐらかしたりするようであれば、その契約は見送るべきでしょう。

 

3.「お金の話」を、最高のコミュニケーションと捉える

恋人や夫婦のあいだで、お金の話をすることは、気まずいことでも、相手を疑うことでもありません。むしろ、2人の将来に対する価値観をすり合わせる、最高のコミュニケーションです。日常的に、オープンにお金の話ができる関係性を築くこと。それこそが、ケイさんが陥ったような悲劇を未然に防ぎ、2人の信頼関係をより強固なものにするのです。

保険は保障内容をしっかり理解してから

今回のケースの最も根深い問題は、ケイさんが「よくわからないまま、相手を信じて契約してしまった」ことにあります。

 

愛情は、時に私たちの目を曇らせます。しかし、あなたのお金と人生は、あなただけのものです。どれだけ愛する人の勧めであっても、最終的にその契約書にサインをし、責任を負うのは、ほかの誰でもない自分自身であることを忘れずにいましょう。