(※写真はイメージです/PIXTA)
長年の夢だった「スローライフ」の実現
「定年を迎えたら、ごみごみとした都会は離れる――長年の夢でした」
鈴木誠一さん(61歳・仮名)。大学進学を機に上京。就職は東京か地元かで悩みましたが、大手企業への就職を機に、しばらく東京にいることを決意しました。ところが、30代を前に地元に帰るつもりだったといいます。しかし、結婚した智子さんは東京近郊の出身で、子どもが生まれても夫婦共働きを希望。そうなると、親世代(祖父母)の協力は欠かせません。義実家の近くで居を構え、仕事と子育てを両立させる日々を送りました。
「家を買うという話が出たこともありますが、家を買ってしまうとますます東京から離れられなくなる――マイホーム購入を熱望する妻への私なりの最後の抵抗でした」
都内のオフィス街、窓のない会議室で延々と続く会議。鳴りやまない電話、日に日に積み重なる書類の山……そんな喧騒から解放されて自由になる日々をずっと思い描いてきたんです。
そして60歳定年が眼前に見えてくる、50代半ば。誠一さんは智子さんに、定年を迎えたら東京を離れたい、田舎で暮らしたい、と伝えました。
「妻は難色を示していました。便利な都会育ちですから。ただ、私の熱心な説得に根負けして、妻も『定年を迎えた後であれば』と、承諾してくれたんです」
誠一さんが定年を迎えた1年後、妻の智子さんも定年を迎え、念願の田舎暮らしをスタートさせた鈴木さん夫婦。誠一さんの地元のさらに郊外に300坪の土地を購入し、こだわりの注文住宅を建てました。1坪=数千円だという田舎。土地代と戸建ての建築費を合わせても、誠一さんの定年退職金2,000万円で(わずかではありますが)お釣りがくるほどでした。
こうして、都会の喧騒から離れたスローライフがスタート。日の出とともに起き、テレビのゴールデンタイム帯には就寝。家の畑で採れた野菜が食卓を彩る、何とも健康的な食事。所帯を持った子どもたちは、お盆と正月に孫たちを連れて遊びに来てくれる――退職金2,000万円をはたいて手に入れた田舎暮らしは、まさに理想通りでした。
しかし、田舎暮らしを始めてから1年。誠一さんの姿は東京にあります。なぜなのでしょうか?