(※写真はイメージです/PIXTA)
聞こえるはずのない「音」…入居初夜の悪夢
待ちに待った新居での生活。その夜は、引っ越しの荷解きも一段落し、子どもたちは新しい自分の部屋ではしゃぎ疲れて眠りにつきました。妻も安堵の表情で先に休むなか、田中さんは1人、夢だった書斎で軽く祝杯をあげようとすると、どこからとなく、低く、鈍い音が響いてきました。
――ゴォォォ
最初は空調の音かと思いましたが、明らかに外から聞こえてくる音です。しばらくすると音は止みましたが、また30分ほどすると、同じ音が鳴り響きました。気になって窓を開けると、音の正体はすぐに判明しました。隣の家の給湯器が作動する音だったのです。
「まさか、と思いました。隣家との距離は、法律で定められた基準以上に確保したはずです。設計段階では、まったく気にしていなかった部分でした」
さらに深夜になり、隣家の住人が帰宅したのでしょうか。玄関のドアが閉まる音、窓のサッシを開ける音、さらには庭先で話す声まで、まるで壁のすぐ向こうで話しているかのように、書斎の窓を通して聞こえてくるのです。
田中さんの書斎は、隣家のリビングや浴室と面する位置にありました。そのせいもあって、想像以上に音が書斎に響くのです。隣家の窓と、田中さんの書斎の窓が、ほぼ向かい合うような形になっていたことが致命的なミスでした。
「8,000万円もかけて建てた家が、これか……」
注文住宅で「後悔」しないために
田中さんのように、マイホームを実現したあと「住んでみてから気づく後悔」は、決して特別なケースではありません。
株式会社AZWAYが20代から60代以上の男女を対象に行った調査によると、「家づくりで失敗したと思ったこと」として最も多かったのが「間取り」で18.5%。「収納が少ない」13.7%、「立地や環境」9.1%と続きました。
また、株式会社南勝/「YouTube不動産」が、築1年以上10年以内の戸建て注文住宅に居住する男女を対象に行った調査では、「自宅の間取りの後悔」として最も多かったのが「窓の位置」で26.8%でした。次いで「狭いバルコニー」「ウォークインクローゼット」「リビング階段」「ウォークスルー型のシューズクローク」と続きます。
田中さんのケースは「窓」の配置計画の甘さと、「防音」への配慮不足が招いた悲劇といえるでしょう。図面の上では完璧に見える家も、実際に生活してみると、周辺環境との関わりのなかで思わぬ欠点が浮かび上がってくることがあります。
後悔しないマイホームづくりを実現するためには、設計段階で自分たちの要望を伝えるだけでなく、プロの視点から周辺環境を含めた提案をしてもらうことが不可欠です。たとえば、
■時間帯や曜日を変えて、土地の周辺環境を何度も確認する(特に夜間の静けさや、隣家の生活リズムなど)
■隣家の窓や給湯器、エアコンの室外機などの位置を把握し、それらを考慮した窓の配置や部屋のレイアウトを計画する
■必要であれば、防音壁の設置や、より遮音性の高い窓ガラスへの変更を検討する
といった対策が考えられます。図面だけでは見えてこない「音」や「視線」の問題は、住み始めてからの生活の質を大きく左右する重要な要素です。
高額なローンを背負い、簡単にやり直すことのできない買い物だからこそ、あらゆる可能性を想定し、慎重に計画を進めたいものです。
【参考資料】
国土交通省『令和5年度 住宅市場動向調査』
株式会社南勝/「YouTube不動産」『56.6%が自宅の間取りに後悔! 「後悔した間取り」ランキング!3位はウォークインクローゼット “お勧めしない間取り9パターン” を一級建築士が解説!』