親の失業や事業不振、突発的な家計の急変――。予期せぬ事情で、大学進学を支えるはずだった家庭の計画が、ある日突然崩れることがある。夢を諦めないために多くの学生が頼るのが奨学金だが、それは学びの機会を得るための「希望」であると同時に、当然ながら卒業後の人生に長く続く「負債」という現実も伴う。本記事では、Aさんの事例とともに、奨学金を借りる若者の実情について、アクティブアンドカンパニー代表の大野順也氏が解説する。
夢を抱いて上京した18歳。東京の大学入学まもなく北陸の40代・月収100万円の両親から「緊急連絡」で絶望…一時帰郷も、地元の「変わり果てた姿」に再び絶望したワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

子どもの「遊びや体験活動の費用」「将来の貯金」を削らせないために

Aさんのように、自分ではどうしようもない事情で奨学金を借りた若者は少なくない。親の事業不振、失業、病気など、予測不能な出来事で進学資金計画が崩れる例は多い。奨学金は夢を諦めずに学びを続けるための重要な制度だが、卒業後は長期的な負担となる。

 

NPO法人キッズドアの「2025夏 子育て家庭アンケート調査報告」によると、ほぼすべての家庭が物価高による家計悪化を感じ、約8割が子どもの「遊びや体験活動の費用」「将来のための貯金」を削っている。昨年と比較して賃金が上がったと答えた家庭も、その約9割が「賃金の増加幅は物価上昇に対して十分だと思っていない」と回答した。今後、奨学金を借りざるを得ない家庭はさらに増えるとみられる。

 

こうした状況のなかで注目されているのが、企業による「奨学金返還支援制度」。これは、企業が従業員の奨学金返還を肩代わりする制度で、多くの場合、支援額は給与と見なされず所得税や社会保険料が課されないため、従業員にとって経済的なメリットが大きいのが特徴だ。さらに、人手不足に悩む企業にとっても、若者の採用や定着につながる、双方にメリットのある制度として関心が高まり、導入社数は増加を続け、2024年10月末時点で2,587社に達している。

 

不測の事態で借金を背負った若者が安心して学び、働き、返還し、またその資金が次世代の学びを支える。このサイクルを支える社会づくりは、企業や地域、そして日本全体の活力に直結するだろう。

 

〈参考〉

2025 夏 子育て家庭アンケート調査結果報告
https://kidsdoor.net/data/media/posts/202507/2025_WEB.pdf

 

 

大野 順也

アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長

奨学金バンク創設者