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「名義だけ貸して」…疑わなかった親の言葉
Aさんは群馬県出身の30歳。4人家族で自営業を営む父と母、2歳上に兄がいる。家業の収入には波があり、景気のいい年もあれば苦しい年も。そんな家庭で育ったこともあり、Aさん自身、家計のやりくりが大変なことは子どもながらに感じていた。
都内の私立大学への進学が決まったとき、父親からこういわれた。
「学費は奨学金で借りてほしい。名義はAになるけど、返済はお父さんたちがするから」
事業のための手元資金をできるだけ残しておきたいという事情があったようだ。
「親がそういうなら、そういうものなのかなって。名義を貸すだけ、みたいな感覚でした。自分が借金をするんだという意識は、正直まったくなかったです。周りにも奨学金を借りている友達は多かったですし、うちは親が返してくれる分、むしろ恵まれているくらいに思っていました」
日本学生支援機構の第二種奨学金を月8万円で申し込み、手続きは滞りなく進んだ。4年間で借りた総額は384万円。しかし、「返すのは親」という前提があったため、その金額を重く受け止めることはなかった。卒業後の返済口座(リレー口座)は父名義の口座を設定。日本学生支援機構では本人以外の口座を返済用口座として登録できるため、返済は父の口座から行われることになった。
その結果、Aさんは毎月いくら返済されているのか、残高がどれくらい残っているのかを確認する機会もないまま、社会人生活を送ることに。卒業後は都内の企業に事務職として就職し、一人暮らしを始めた。奨学金を意識することは、ほとんどなかったそうだ。
「詐欺かと思いました」社会人5年目、見知らぬ番号からかかってきた電話
転機は突然訪れた。社会人5年目のある日、Aさんの携帯電話に見知らぬ番号から着信が入る。電話の相手は、日本学生支援機構から委託を受けた債権回収会社だった。
「奨学金の返還が滞っています」。突然そう告げられた。
「最初は詐欺だと思いました。奨学金を騙った詐欺があるって聞いたこともあったし、そもそも親が返してくれているはずだったので。でも話を聞いていくと、貸与額も卒業年度も全部合っていて、『これは本物だ』って……」
Aさんはすぐに実家へ電話をかけた。父はしばらくの沈黙のあと、事情を話しはじめた。事業の資金繰りが悪化し、数ヵ月前から返済口座への入金ができなくなっていたという。振替不能を知らせる通知は父のもとへ届いていたが、「落ち着いたら払うつもりだった。心配をかけたくなくていえなかった」と繰り返した。
そのとき初めて、Aさんは制度の仕組みを知る。奨学金の返済義務を負うのは、親ではなく貸与を受けた本人だ。親が返済すると約束していても、それは家庭内の取り決めに過ぎない。延滞が続けば督促は本人や保証人に届き、状況によっては債権回収会社へ回収業務が委託される。さらに、延滞が3ヵ月以上続いた場合には、個人信用情報機関へ延滞情報が登録されることもある。
「自分の知らないところで延滞が起きていて、もしかしたら信用情報に影響していたかもしれない。将来、住宅ローンやクレジットカードに影響が出たらどうしようって、本当に血の気が引きました」