かつて大きな成功を手にした人々にも、人生の転機は唐突に訪れます。肩書や年収といった数字が目を引く一方、その先に待ち受ける現実は決して他人ごとではありません。時代や環境が変わるなか、老後の「自分らしさ」と豊かさをどう守るのか―本稿は、その葛藤や課題に静かに光を当てます。
愚かでした…年収1,500万円だった66歳・元エリート部長、年金〈月17万円〉の現実に絶句。スーパーで3割引きの惣菜を手に「俺の人生、こんなはずでは…」と涙 (※写真はイメージです/PIXTA)

エリート意識から抜け出せない66歳男性

上質なジャケットを品よく着こなし、背筋を伸ばして座る鈴木健介さん(仮名・66歳)。その佇まいからは、長年ビジネスの最前線に立ってきた人物の矜持が確かに感じられます。

 

「いやあ、昔の話ですよ」

 

そう穏やかに微笑む鈴木さん。情報系大手の部長として世界を飛び回り、年収が1,500万円を超えていたという現役時代。しかし、その華やかな過去を語る際、時折、ふと切なさがこぼれます。

 

「今でも、当時の仲間たちとの付き合いは続いています。彼らとのゴルフや食事会は、私にとって数少ない楽しみであると同時に、正直に言えば大きな負担にもなっています。しかし、『鈴木も苦労しているらしい』などと噂されるのは、どうしても耐えられなくて……。見栄を張って、つい会計を多めに払ってしまうこともあります」

 

プライドが、生活水準を落とすことを許さない。人付き合いを維持するために、表面的な豊かさを取り繕う。その歪みが、鈴木さんを苦しめています。60歳で完全リタイアしたときには、退職金と貯蓄で、老後は安泰だと信じて疑いませんでした。しかし、妻の病気といった想定外の出費が重なり、頼みの綱である年金の支給額を知ったとき、愕然としたといいます。

 

「厚生年金と国民年金を合わせても、手取りで月に約17万円。やっぱりな……とは思っていましたが、現役時代の月収を考えればため息が出る金額です。これでは、これまで通りの付き合いなど到底維持できるはずがない。改めて自分の置かれた現実を突きつけられた気がしました」

 

年金の手取りが月17万円であれば、額面では20万円ほどと考えられます。厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、厚生年金保険(第1号)受給者の平均年金月額は14万6,429円。65歳以上男性に限ると16万9,484円です。鈴木さんの受給額は平均よりはるかに高いものの、「元エリート部長」にふさわしい生活レベルには、あまりにも及ばなかったのです。