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数字が語る、虐待の痛ましい実態
厚生労働省が公表した『令和5年度福祉行政報告例』には、目を背けたくなるような数字が並んでいました。全国の児童相談所が一年間で対応した児童虐待の相談件数――その数、なんと22万5,509件。前の年よりも1万件以上も増えています。数の大小を論じる前に、この現実の重みにどう向き合うかが、まず問われているように感じます。
なかでも多いのが「心理的虐待」です。これは怒鳴る、無視する、脅すなど、目には見えにくいかもしれないけれど、確実に子どもの心に傷を残す行為。件数でいえば13万4,948件を超えています。つまり、虐待相談の半数以上がこの類型です。次いで、身体的虐待が5万1,623件。ネグレクト(育児放棄)は3万6,465件。性的虐待も2,473件と、決して無視できる数字ではありません。
こうした数字の裏には、いったいどんな家庭の風景があるのでしょうか。虐待する側の最多は「実母」(48.7%)、その次が「実父」(42.3%)。つまり、身近な大人が子どもを傷つけているという現実です。「家族は安全な場所」という信念が揺らいでしまうような現状に、言葉を失います。
年齢で見ると、虐待を受けた子どものなかで最も多かったのは3歳児(1万4,423件)。無力で、親にすべてを委ねるしかない年齢です。彼らが家庭で苦しんでいるというのは、本当にやるせない話です。
都道府県別に見れば、東京、大阪、埼玉といった人口の多い都市圏で件数が目立ちます。東京は約1万9,000件、大阪は1万5,000件超。これは当然、人口が多ければ件数も増えるという傾向に沿ったものかもしれません。でも、件数だけでは語れない地域事情もあります。
たとえば、ある地方都市では、児童相談所の職員が慢性的に不足していて、通報されても対応までに時間がかかるケースがあると聞きました。福祉の現場が限界に達しているという声は、報道でもよく耳にします。制度や統計だけでは見えてこない“現場の温度”を忘れてはいけません。