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親孝行なはずの娘からまさかの反応が
食事は自分の口に合うもの、人間関係の煩わしさから逃れられる、落ち着いた生活を求め、AさんはDさんと同じ老人ホームへの引っ越しを強く願うようになりました。高額な費用はかかりますが、最初の一時金は生命保険や投資信託を解約すれば十分に用意できそうです。月々のランニングコストも、年金だけでは少し足りませんが、差額の持ち出し分については向こう30年間は持ちこたえられる体力があります。そんな算段を胸に長女Bさんに相談したところ、返ってきたのは思わぬ反応でした。
「お母さん、なにをいってるの? 私は賛成できないわ。もし、病気になったり、認知症になったりしたらどうするの? 食事は私も普段食べてみたことあるけど、悪くはないわ。Cさんのことだってお母さんの考えすぎじゃない? いい人だと思うよ。ちょっとわがままなんじゃない?」そう、Bさんは理解を示してくれません。
何度か話し合ったのですが、態度が変わることはありませんでした。引っ越しに反対する理由がいまひとつはっきりせず、Aさんはやがて「Bは、できるだけ財産を多く遺してほしいと思ってるのでは……!?」と疑心暗鬼に。もちろん、長女Bさんはその点を直接認めることはありませんが、引っ越しの話になると、歯切れの悪い受け答えをするBさんの態度に、Aさんの不信感は募るばかり。
新たな老人ホーム入所の保証人に快くなってくれそうな雰囲気もありません。Bさんの態度にいらだちすら覚えてきます。Aさんも娘の反対を押し切って引っ越しを進めるほどの気力もなく、時間の経過とともにAさんは引っ越しを諦めてしまったのでした。
終活での決め事、適切な順番とは?
財産状況を知った子どもが態度を変えるというのは、決して珍しい事ではありません。子どもが常に自分の思いどおりの人生を歩むサポーターかというと、残念ながら必ずしもそうであるという保証はないのです。娘の態度がけしからんといくら責めても、嘆いても、一度こじれてしまった関係を修復するのは、簡単なことではないでしょう。
Aさんの選択の中でもし理想に近い選択をするチャンスがあったとすれば、それはやはり最初の施設選びと遺言書作成のタイミングでした。まず自分の理想の人生を決め、そのあとに遺し方を考えるという順番です。人生の総決算ともいえるこの選択を一人で決めるのが難しい場合は、多面的な視点を持つ信頼できる専門家に相談することも大切な一手といえます。信頼できる誰かが家族であれば、それに越したことはないのですが、家族だからこそみえてこない一面、特にお金の話題は話し合いづらさというのもあるのではないでしょうか。
森 拓哉
株式会社アイポス 繋ぐ相続サロン
代表取締役