子どもの幸せを願う親の気持ちは、いつの時代も変わりません。しかし、その「幸せ」の形は、時代とともに大きく変化しています。親世代が信じた成功の道。一方、子世代が信じるのはまったく異なるものだったら……。この価値観のギャップに、戸惑いを覚える親は少なくないでしょう。本記事では社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が、Aさんの事例とともに子の経済的自立と幸せな親子関係を築くためのヒントを探ります。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
月収25万円・40代サラリーマン…ランチは298円のコンビニ飯、散髪は妻のバリカン。涙ぐましい努力で娘を有名私大に通わせるも、卒業後の進路に唖然「MBTIで決めた」娘の発言に更なる唖然【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

あと少しで夢が叶う!はずが…

大学卒業後は大企業に勤めてくれたら、なんて思っていたAさん。想いが成就するのに残すは就職のみと、夫婦で「あと少しだね」と話していたところ……。娘が大学4年生になったある日、娘から彼氏がいることを告げられました。

 

お付き合いも社会勉強の一つと苦笑いをしていたAさんですが、話はそれだけで終わらなかったのです。卒業するや否や、結婚すると宣言されます。Aさんは思わず唖然としました。更に、結婚する理由として「彼と私はMBTI診断で相性抜群」というので、わけもわからずポカンとしてしまいました。

 

MBTI診断とは、マイヤーズ=ブリッグス・タイプ指標(Myers-Briggs Type Indicator)の略で、個人の性格を16種類に分類する心理検査のこと。近年、若者を中心に流行しており、恋愛においては、相性のいいタイプとの関係は、より深い絆と理解を生む可能性が高いとされています。

 

Aさんとしては、彼とお付き合いすることに反対するつもりもないが、せめて就職し何年か働いたのちにそれでも結婚したい気持ちがあるなら結婚したらどうだろうかと話します。しかし、娘はすぐに結婚すると聞く耳持ちません。

「親の期待」と「子の人生」の向き合い方

娘の将来のためにと、すべてを捧げてきたAさん夫婦。その努力のゴールが目前に見えたところで、夢は思わぬ方向へ……。このように、子どもの人生は必ずしも親が思い描いた通りに着地するとは限りません。

 

MBTI診断はあくまでも指標の一つです。これらはあくまで自己理解を深める参考ツールであり、その結果だけで重要な判断を下すことには危うさが伴います。診断結果を鵜呑みにするのではなく、個人の価値観や経験も同じくらい大切にすべきだと、親として、また人生の先輩として伝えることが重要かもしれません。

 

また、子ども自身の選択肢を狭めないための対話をしましょう。「大企業への就職」と「結婚」は二者択一ではありません。結婚しても働き続けることはできますし、自立、自己成長、社会貢献という要素があり、キャリアや経験等、得られるものがたくさんあること、結婚しても働くことができることなどは、人生を豊かにします。

 

若いうちにキャリアをスタートさせ経済的に自立することは、これからの長い人生で起こりうるさまざまなリスク(パートナーの失業や病気、離婚など)から自分自身を守ることに繋がるといえるでしょう。愛情とは別の次元で、自身の稼ぐ力という基盤を築くことの重要性を伝える必要があります。

 

親の願いが、時に子どもの視野を狭めてしまうこともあります。子どもの人生は、子ども自身のものです。まずは我が子の選択を頭ごなしに否定せず、そのうえで、親として伝えられる人生の選択肢の多さや、働くことの意義を根気強く対話していくことが、いまAさん夫婦にできる最善のことかもしれません。

 

〈参考〉

厚生労働省:令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/dl/03.pdf

 

 

三藤 桂子

社会保険労務士法人エニシアFP

代表