Step 1 計算力を養成する
数学の基礎力は「計算力の養成」と「典型的解法の理解・定着」によって完成します。
計算力は、次の2つの力に大別されます。

まず、速く計算するためには、「数に対する感覚」を磨く必要があります(漫画『ドラゴン桜』(講談社)でも “数の暗黙知” という言葉で紹介されています)。
例えば、18という数字を見たとき、直感的に10+8、20-2、2×9、3×6 などのように思い浮かぶことを指します。この感覚が身についてくると、計算は確実に速くなります。例えば、18×9を計算するのに、頭の中で「18×9=(10+8)×9=10×9+8×9=90+72=162」といった計算や、「18×9=(20-2)×9=20×9-2×9=180-18=162」、「18×9=2×9×9=2×81=162」といった計算が自然にできるようになります。
このような数に対する感覚を身につけるためには、何よりも継続的に数字に触れることが大切です。数に対する感覚は時間が空くと必ず鈍ってしまいます。
そのため、1週間に1回1時間の計算練習をするよりも、1回10分の計算練習を毎日繰り返したほうが大きな学習効果を得られます。特に「数学が苦手」という人は、数学の学習をしない日をつくらないようにしましょう。
仮に学校の宿題がないような日があったとしても、10~15分程度の計算問題に取り組むようにしてください。毎日継続的に数字に触れることで数に対する感覚が身につき、計算速度は見違えるほど向上します。
次に、正確に計算するために必要なことは、「暗算に頼りすぎずに手を動かすこと」と「見直し」です。
よく、速く問題を解くことを目的として、暗算を多用したり、途中計算や筆算を書くことを省略したりする人がいますが、これは大きな間違いです。途中計算を書いたり筆算を使ったりすると時間がかかると考えがちですが、実際には下手に頭の中だけで処理をするほうが計算ミスも多くなり、かえって時間がかかることが多くなってしまいます。一方で、筆算や途中計算をしっかりと残すことで、必要最小限の時間で処理できるので、あとで見直しができます。
実は、数学が得意な人、計算力がある人でも、まったく計算ミスをしないわけではありません。では、計算力のある人とそうでない人の違いは何でしょうか。
私は「計算力のある人=自分のミスに気づいてリカバリーができる人」だと考えます。仮にミスをしても、解答の途中でそのミスを見つけて修正しているため、結果として正確な答えを導き出せているのです。自分でミスに気づいて修正するためにも、筆算や途中計算は決して省略すべきではありません。
これらを書くことは速く解くことと相反するものではないのです。このような考えから、私は2桁どうしのたし算・引き算、2桁×1桁のかけ算、1桁でわるわり算以外は、暗算は使わず必ず筆算を使うように指導しています。
なお、見直しの精度を向上させるために、計算ミスをしてしまったときにはその原因や種類をしっかりと分析するようにしましょう。たし算・引き算の際の繰上げ・繰下げのミス、方程式を解く際の移項に伴う符号のミス、乱雑な字を書いてしまったための見間違いなど、ミスといってもいろいろな種類のミスがあります。
これらを一括りに「ケアレスミス」と捉えているうちは、絶対にミスはなくなりません。ミスに気づきミスをなくすためには、自分がどのようなミスをしやすいのか、その傾向を把握して、意識してなくす努力に取り組むことが重要なのです。
そのため、メディカルラボでは生徒の皆さんに「ケアレスミスノート」というものを配布し、ミスの内容を書き留めて自己分析し同じようなミスを繰り返さないよう意識してもらう、といった取り組みを行っています。
Step 2 典型的解法の理解と定着を図る
次に、実際に問題を解けるようになるために大切なのが、典型的な問題に対する解法を理解して身につけることです。そのためには、「公式・定理」と「解法の方針」の2つを理解し、定着させる必要があります。
まずは公式・定理ですが、これは言わば「答えを簡単に出すための道具」です。例えば、中学校でも習った2次方程式の解の公式
x = -b ± √(b² - 4ac) / 2a
は平方完成と言われる煩雑な式変形をしなくても、方程式の係数を代入するだけで答えが出せるといった便利な道具です。この道具を使いこなせるようになるためには、単に公式を丸暗記するだけではなく、その「使い方」と、それが使える「場面」をあわせて理解しておく必要があります。
先ほどの解の公式であれば、「2次方程式 ax²+bx+c=0 の x² の項の係数を a、x の項の係数を b、定数項を c としてそれぞれを代入する」というのが使い方です。また、「2次方程式の解を求めるとき」というのが、公式を使う場面です。
このように、公式・定理は必ずその「使い方」と、それを「使う場面」をあわせて覚えるようにしましょう。
次に解法の方針ですが、これは「問題を解くための設計図」のようなものです。やみくもに問題に取り組んでも正しい答えに到達するのは難しいですから、まずはどうすれば自分が持っている道具(公式・定理)を使えるようになるのか、設計図をつくるのです。
前出の2次方程式を例に説明すると、2次方程式の中には( )を含むなど複雑な形をしたものがあります。それらに対して解の公式を使おうと思ったら、まずは「式を変形して、ax²+bx+c=0の形に整理する」と考えて計算を始めますよね。これが、設計図(解法の方針)です。
実際に高校の数学の授業では、『チャート式』(数研出版)や『Focus Gold』(啓林館)といったテキストがよく用いられます。これらのテキストの「例題」には、典型的な解法が取り上げられています。数学の基礎力を固めるためには、まずはこれらの例題やその類題に取り組んでください。その際には必ず、「どの公式・定理を使うために、どのような解法の方針を立てているのか」、つまり「どのような設計図をつくって、どの道具を使っているのか」を理解することを心がけましょう。
また、「なぜその公式・定理を用いようと考えたのか」、つまり「その道具を使う場面にどのように気づいたのか」という視点を持つことも大切です。これらを確認・理解するために、問題を解き終えたあとには、解説を読みながらじっくりと解法についての振り返り(フィードバック)をしてください。
メディカルラボの生徒によく言うことなのですが、「問題を解き終わったあとが、本当の学習」です。問題を解くのにかかった時間と同等の、もしくはそれ以上の時間をかけて、その問題で使った公式・定理や解法の方針についての分析・整理をしてください。
典型的な問題の解法が理解できたら、次に目指すべきことは問題を見たときに「ここはこの解法が使える」と即座に判断できる力を身につけることです。私はこれを「解法の瞬発力」と呼んでいます。解法の瞬発力を身につけるためには繰り返し問題に取り組むことが何よりも有効です。
何度か手を動かして解いたことのある問題であれば、問題を見て解法を頭に思い浮かべるだけでも効果があります。例えば定期テスト前に最後の確認で復習をしたいときなどは、このような手法を学習に取り入れてみてください。
可児 良友
医系専門予備校メディカルラボ 本部教務統括


