国家公務員という響きに、安定ややりがいを思い描く人は多いのではないでしょうか。しかし、その舞台裏には、私たちが想像する以上に過酷な現実が広がっています。
もはや限界です…憧れの国家公務員になった28歳女性。入省3日、霞が関で見た「信じがたい光景」に絶望 (※写真はイメージです/PIXTA)

「国のための仕事」というやりがいの裏側で

入省から数ヵ月。沙織さんの日常も、すっかり霞が関のそれに染まっていました。終電を逃すことは当たり前になり、タクシーで帰宅する日々。週末に急な呼び出しがかかることも一度や二度ではありませんでした。

 

「国の政策に関わっている」。そのやりがいは、確かに存在しました。自分が作成した資料が、大臣の答弁や新しい法律の一部になる。その達成感は、以前の職場では味わえなかったものでした。しかし、そのやりがいのために、あまりにも多くのものが犠牲になっていると感じずにはいられませんでした。

 

心身のバランスは、徐々に崩れていきました。十分な睡眠時間が確保できず、日中は常に頭がぼんやりとしていました。かつては楽しみだった友人との食事の約束も、急な仕事でキャンセルせざるを得ないことが増え、疎遠になっていきました。

 

このような過酷な労働環境は、なぜ生まれるのでしょうか。その一因は、国家公務員特有の業務プロセスにあります。特に国会会期中は、議員からの質問通告に対応するための準備に追われます。通告が深夜になることも珍しくなく、そこから朝までに関連省庁との調整や答弁作成を行う「国会待機」は、霞が関の悪しき伝統として知られています。

 

こうした状況は、職員の心身に深刻な影響を及ぼしています。人事院『令和5年度 年次報告書』によると、精神および行動の障害による長期病休者数は、5,389人。これは全職員の1.92%にあたり、この5年で1.4倍に増加しています。また年齢別に見ていくと、「20代」で2.61%、「30代」で2.01%、「40代」「50代」で1.76%と、若手職員ほど長期病休者率は高くなっています。

 

そんな危機感が、多くの若手職員を早期離職へと向かわせています。人事院によると、国家公務員の幹部候補である総合職として2014年に採用された約600人の23.2%が、この10年間で退職。また全体の8.6%が採用後5年未満、14.6%が6年目以降に退職と、5年目以降の退職者が急増する傾向にあります。

 

 

憧れだった国家公務員。しかし「もう限界です」と沙織さん。

 

「民間企業よりも安心して働けると思っていたんですが……幻想だったみたいです」

 

国の未来を担うはずの優秀な人材が、その情熱と能力を発揮する前に心身をすり減らしていく――政府が推進する働き方改革の成果が霞が関の隅々まで届くには、まだ時間がかかりそうです。

 

[参考資料]

人事院『「超過勤務をめぐる現在の状況」に係る各府省アンケートの結果について(国会対応業務、業務量に応じた要員の確保)(令和6年8月8日)』

人事院『令和5年度 年次報告書』