高齢者を狙った詐欺の手口は、巧妙さを増しています。かつての経験や肩書きだけでは、防ぎきれない落とし穴がそこかしこに仕掛けられているのが現実です。信じた相手がまさか――。
なぜ騙されたんだろう…〈年金月20万円〉72歳父の書斎で見つけた「謎の振込明細書」。元教員のプライドを打ち砕いた巧妙なワナ (※写真はイメージです/PIXTA)

なぜ騙されてしまうのか? 巧妙化する手口と「確認すべきポイント」

一郎さんが陥ったのは、「国際ロマンス投資詐欺」と呼ばれる典型的な手口です。出会い系サイトやマッチングアプリで恋愛感情や信頼関係を築いた後、偽の投資話に誘導し、金銭をだまし取ります。

 

国民生活センターによれば、「出会い系サイトやマッチングアプリ等で出会った人物から、海外の投資サイトやアプリを紹介され、投資したが、出金できなくなった」という相談が後を絶ちません。一郎さんのように、最初は利益が出ているように見せかけ、信用させたうえで、いざ出金しようとすると「税金の支払いが必要」「保証金を納めないと引き出せない」など、さまざまな名目で追加の支払いを要求されるケースが多いといいます。

 

警察庁の発表によると、SNS上で関係を構築してから投資に誘導する「SNS型投資詐欺」の被害額は、2025年5月末時点で認知件数は4,270件、被害額は465.9億円にのぼります。

 

一郎さんは、増えていく画面上の利益を現実のものにしようと、女性に「一度出金したい」と伝えました。すると、「出金には利益の20%の税金がかかる」「高額出金だから、保証金として50万円が必要」などと次々に理由をつけられ、その都度送金してしまったのです。元教員としてのプライドと、「ここでやめたら今までの分が無駄になる」という損失回避の心理が、冷静な判断を狂わせました。合計で300万円以上を振り込んだあと、女性からの連絡は途絶えました。

 

金融庁のウェブサイトでは、金融商品取引業の登録を受けていない無登録業者との取引は行わないよう、強く警告しています。仮に誰かに紹介された投資話であれば、投資サイトの運営会社が金融庁に登録された業者であるかの確認を。海外の事業者であっても、日本の居住者にサービスを提供する場合は登録が必要です。そして何より、一度も会ったことのない相手を安易に信用し、振込・送金することは絶対にNG。「保証金」「手数料」といった名目で追加の支払いを求められても、応じてはいけません。

 

健太さんに付き添われ、各方面に相談した一郎さんですが、海外の個人口座に送金してしまったお金を取り戻すのは極めて困難だと告げられました。

 

「なぜ、あんなものに騙されてしまったんだろうな」

 

うなだれる父の背中を見ながら、健太さんもまた「もっと、父の孤独感に寄り添ってあげていれば……」と後悔の念にさいなまれました。

 

[参考資料]

国民生活センター『消費生活相談データベース(PIO-NETより)

警察庁『令和7年5月末におけるSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)』

金融庁『無登録業者との取引は要注意!!』