(※写真はイメージです/PIXTA)
問題ある入居者…施設側の対応の限界
しかし、老人ホームでの穏やかな日常は、少しずつ変化が生じます。良子さんが入居して6ヵ月が過ぎた頃、一人の男性が入居してきました。鈴木剛さん(82歳・仮名)。元町内会長という経歴を持つその男性は、入居初日から自分の存在を強く主張する人物でした。
鈴木さんは、ホームのあらゆる運営に口を出すようになりました。食堂の席順、レクリエーションの内容、共有スペースの使い方――まるで、ここが自分の治める町内会であるかのように振る舞い、自分のやり方に従わない入居者やスタッフを大声で非難するのです。最初は「元気な人が来たわね」と好意的に見ていた入居者たちも、次第にその自己中心的な言動に眉をひそめるようになりました。
鈴木さんの行動は、日を追うごとにエスカレートしていきました。良子さんが仲間と楽しんでいた読書会にも、「ラウンジを独占するな!」と乗り込んできては、場の空気を台無しにするようになりました。他の参加者が萎縮してしまい、あれほど楽しかった読書会は、いつしか開催されなくなってしまいました。
良子さんの心の平穏は、完全に打ち砕かれました。かつての楽しかった日々はまるで遠い昔のことのようです。思い悩み、ホームの責任者に相談しましたが、返ってきたのは「鈴木さんにも悪気はないようですし、皆さんでうまくやっていただくしか……」という、歯切れの悪い言葉だけでした。
老人ホームは、できれば見学をして決めたいところ。しかし、見学をしたからといってハード以外は見えにくく、特に入居者との相性は見極めが難しいところです。
・トラブル発生時の施設側の具体的な対応方針や過去の事例
・入居者同士のコミュニティがどのように形成され、維持されているか
・施設長やスタッフの理念、入居者への接し方
などを確認し、予防線をはるしか方法はなさそうです。
気の合う仲間と過ごすはずだった毎日が、たった一人のトラブルメーカーの存在によって地獄のような日々に変わってしまった田中さん。転居も含めて検討しているといいます。
[参考資料]