(※写真はイメージです/PIXTA)
老後の夢を夢で終わらせないために
軽井沢での3年間は、Aさん夫婦にとってかけがえのない時間でした。しかしその経験を振り返ったとき、「理想を描くだけでは老後の生活は成り立たない」と痛感したといいます。ここでは、Aさん夫婦の体験をもとに、老後の夢を夢で終わらせないために必要な3つの視点をご紹介します。
1.「非日常」ではなく「日常」をベースに老後の移住先を考える
移住先を選ぶとき、多くの人が「自然が豊か」「静かで落ち着く」といった“非日常的な魅力”に惹かれがちです。Aさん夫婦もその一組でした。しかし、実際に暮らしが始まると、必要なのは「日常の過ごしやすさ」。買い物の便利さ、通院のアクセス、近所づきあいの気楽さ――こうした“当たり前の生活”がしっかり成り立っているかが、老後の満足度を大きく左右します。 下見は「観光気分」ではなく、「平日」「雨の日」「冬」など、リアルな日常を体験するつもりで行いましょう。
2.医療・介護インフラは“将来の不安”ではなく“現在の設計”に組み込む
「まだ元気だから大丈夫」と思いがちですが、介護や通院は“ある日突然”必要になるものです。Aさん夫婦は、医療機関までの距離や介護サービスの空き状況などを後回しにしてしまった結果、生活の継続が難しくなりました。
移住を考える段階で、その地域の医療・介護インフラ(診療所、総合病院、ケアマネの数など)を調べておき、「もしものときに頼れる選択肢」があるかを確認しましょう。
3.退職金の一括投資は慎重に。現金・年金のバランスがカギ
退職金という大きなお金を手にすると、「一括で家を買おう」「設備を整えよう」となりがちです。Aさんも、リフォームに数百万円をかけ、手元の現金が一気に減ったことが、家計の圧迫感につながりました。老後は、“収入が増えない”時代。だからこそ、退職金は「時間をかけて使う資産」と考えることが大切です。固定費を洗い出し、将来の想定外支出にも対応できる“余白”を持つキャッシュフロー設計を行いましょう。
Aさん夫婦は「夢をかなえること」と「持続可能な生活」とのあいだにあるギャップを、身をもって経験しました。理想の老後は、準備とバランス、そして柔軟性――その3つが揃って初めて叶えられるものでしょう。あなたのこれからの人生設計にとって、このAさん夫婦の経験が、ひとつの気づきになれば幸いです。
伊藤 貴徳
伊藤FPオフィス
代表