(※写真はイメージです/PIXTA)
東京帰還の決定打
移住生活3年目の冬、ついに決定的なトラブルが発生します。Aさんの妻が自宅の玄関前で転倒し、左足を骨折してしまいました。「まさか、自分が動けなくなるなんて思ってもみなかったわ……」
軽傷とはいえ、術後のリハビリが必要となり、要支援1の認定を受けることに。Aさんも心配しながら付き添いを続けましたが、そこで大きな壁に直面します。それは、「介護サービスを受けるまでの地域格差」でした。
軽井沢町にも訪問介護やデイサービスの施設はあります。しかし、高齢化が進むなか、ケアマネジャーや介護士の人手不足は深刻で、サービス利用開始までに数週間待ちという現実。さらに、訪問可能エリアが限られており、Aさん宅は「優先順位が後回しになりやすい地域」に該当していました。
「東京ならすぐに受けられるサービスが、ここでは“待つ”ことが必要なんだよな……」
日々の買い物や通院は車がなければ成り立たず、Aさんの妻が動けない状況では、Aさん一人に負担が集中。さらに雪が積もる日には外出もままならず、心身ともに疲弊していくAさん。「軽井沢移住なんてやめればよかった」そう漏らすAさんに、自分のせいで夫を追い詰めてしまったと、妻は自らを責め立てます。夫婦関係が悪化しつつあった、そんなとき、離れて暮らす娘夫婦から電話があります。
「お父さん、お母さん。軽井沢の生活は素敵だけど、今後のこともあるし、もう一度こっち(東京)で一緒に考えようよ」この言葉が背中を押す形となり、Aさん夫婦は「自宅を売却し、都内で再スタートする」という苦渋の決断を下します。
当初1,200万円で購入し約600万円をかけてリフォームした住まいは、幸い、都内からの移住希望者に売却することができ、損失は小さく抑えられました。
「軽井沢での生活は、人生で一番贅沢な時間だった。でも、現実の壁は想像以上に高かった」
Aさん夫婦は現在、東京都内の賃貸マンションで暮らしています。近くには娘夫婦と孫もおり、通院や介護の手続きもスムーズ。決して当初の理想どおりではないかもしれませんが、「安心」という視点では、今の暮らしが彼らにとってしっくりきているようです。