定年後の「第二の人生」をどこで、どのように過ごすかは、多くの人にとって大きなテーマです。都会の喧騒を離れ、自然豊かな田舎での暮らしに憧れを抱く人も少なくありません。しかし、夢見た生活の先には、思いもよらない現実が待ち受けていることもあるのです。
月収65万円から無収入に転落した60歳夫。〈定年退職金3,000万円〉を頼りに「長野に移住」も…「こんなはずでは…」と、わずか1年で東京に舞い戻った「まさかの理由」 (※写真はイメージです/PIXTA)

田舎暮らしは「こんなはずでは」の連続…それでも充実した日々を送っていたが

ただ田舎暮らしは、想定外のことの連続。なかでも住んでみてわかったのが出費でした。「田舎は都会よりも生活費がかからない」と思っていましたが、田舎のほうが高くつくものも。まず水道光熱費。水道料金は地域によって差があり、都会より田舎のほうが高くなることは珍しくはありません。

 

「東京は水道料金が安かったんですね。知りませんでした」

 

また冬の暖房費は東京の倍はかかります。さらに移動コストの問題が重くのしかかりました。最寄りのスーパーや病院へ行くにも車は不可欠。夫婦いつも一緒とは限らず、行動を別にすることも多々あります。そのようなとき、車1台では不便で、中古車でもう1台購入することに。結果的に保険やガソリン代が2台分かかることになりました。

 

「結局、東京で暮らしていたときよりも安くなったのは食費くらいですね。ご近所から食材をもらったり、逆にあげたりして、ほぼゼロ円という月もありました」

 

他にも、田舎ならではの地域コミュニティとの付き合いや、雪深い冬の生活に悪戦苦闘したりと、理想と現実のギャップに驚くことはいろいろ。それでも憧れの田舎暮らしは、イメージ以上に充実したものだったといいます。

 

しかし、田舎に移住してから1年。斉藤さん夫婦の姿は東京にありました。つい1ヵ月前に東京に戻ってきていました。その理由とは健太郎さんの病気。健康診断で再検査となり、精密検査の結果、長期治療が必要になったのです。

 

「少々厄介な病気で、田舎では対応できる病院がなく……東京に戻ってくるしかありませんでした」

 

結局、購入した戸建ては地元の不動産業者に管理を任せる形で放置せざるを得ず、夫婦は東京の家に戻ることに。再び田舎暮らしに戻れる可能性はかなり低いといいます。

 

定年退職金を元手にした「夢の田舎暮らし」。多くの人が描く理想のセカンドライフかもしれません。そんな夢を手に入れたもの、たった1年で終わってしまった健太郎さん。「悔いはない」と気丈に振舞っていました。

 

[参考資料]

総務省『令和5年度における移住相談に関する調査結果(移住相談窓口等における相談受付件数等)』