子の未来を願う親にとって「教育は投資」という言葉は、一つの信念だろう。しかし、その想いが時に家計を圧迫し、親子の価値観に溝を生むことがある。期待を込めて捻出した支援は、いつしか当たり前の権利と化してしまうのか。ある家庭に起きた出来事は、現代における教育投資の理想と現実を映し出している。
〈年収960万円〉51歳サラリーマン、大学進学した娘への〈仕送り月18万円〉で家計崩壊…「教育は投資」を信じていたが、ある日届いたLINEですべてが変わった (※写真はイメージです/PIXTA)

娘の無邪気なLINEで撃沈。それでも「親の役目」と言い聞かせて…

美紀さんはこれまで以上に食費を切り詰め、康弘さんも会社の飲み会は必要最低限に絞り、昼食は愛妻弁当を持参する日々。夫婦の会話は、自然と節約の話題が増えていきました。それでも、娘の未来のためだと思えば、苦にはなりませんでした。むしろ、その先に待つであろう娘の成長した姿を思い描き、ある種の充実感さえ覚えていたのです。

 

しかし、そんな夫婦の健気な覚悟は、またしても揺らぐことになります。結菜さんから届いた、一本のLINEメッセージ。そこには、夫婦にとって目を疑うような言葉が、悪気なく並んでいたのです。

 

「後期の授業、コマ数増えそうだからバイト辞めたくて。両立むずいし」

「バイト辞めたら生活が大変だから、仕送り、4万円ほど増やしてくれると助かる」

「そういえば、友だちと海外に留学したいねという話が出ているの。大学生のときしかできない、いい経験になると思うんだ」

 

娘にとっては、日々の出来事を伝える、他愛のない報告や相談だったのかもしれません。しかし、スマートフォンの画面を見つめる康弘さんの手は、静かに震えていました。

 

月18万円という仕送り額は、決して少ないものではありません。全国大学生活協同組合連合会『第59回学生生活実態調査』によると、大学・下宿生の仕送りは平均7万0,120円(2023年)。一方日本学生支援機構の調査によると平均9万1,408円。7万~9万円が、ひとり暮らしをする大学生の子どもへの平均的な仕送り額といえそうです。そのようななか、森下家はその倍以上の金額を娘に送ることになります。夫婦が身を削るようにして捻出している「投資」だとしても、娘にとっては「当たり前」のものとして消費されていくのでしょうか。「少し虚しさを覚えてしまうのは、親失格でしょうか」と肩を落とす康弘さん。

 

学費に加えて、月18万円になった仕送り。さらに海外留学のことも考えないといけないでしょう。順調にいけば、2年後には次女も大学生になります。姉にこれだけお金をかけているわけですから、妹にダメとはいえません。さらに妹は大学受験に向けて本腰を入れ始め、「塾に通いたい」と言い出している今日この頃。毎月の収入だけではやりくりは厳しく、貯蓄を取り崩すことも視野に入れないといけません。家計はすでに破綻している状況ではあるものの、「それが親というもの」と言い聞かせる森下夫婦がそこにいました。

 

「いつか分かってくれるときがくる。それも含めて投資。私も親に迷惑をかけて、大学まで行かせてもらったわけですから」

 

[参考資料]

文部科学省「令和3年度、私立大学入学者に係る初年度学生納付金平均額(定員1人当たり)の調査結果について」

全国大学生活協同組合連合会『第59回学生生活実態調査』