最後のセーフティネットである生活保護。そんな制度の網の目からこぼれ落ちる人たちがいます。年を重ね、まじめに生きてきたにもかかわらず、ある日突然、暮らしの足元が崩れていく――そんな現実に直面したとき、どうしたらいいのでしょうか。
〈家賃2万3,000円〉〈年金7万円〉役所に助けを求めた74歳の高齢女性、「非情なひと言」に絶望「どう生きていけと」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「無理ですね」…担当者から告げられた非情な一言

「ご相談、というのは……」

 

役所では、まだ若く見える男性の担当者が話を聞いてくれました。よし子さんは震える声で、自分の収入と支出、貯金がもうほとんどないことを正直に伝えました。担当者は手元の資料に何かを書き込みながら、淡々と質問を続けます。

 

「お子さんはいらっしゃいますよね、まずは息子さんにご相談はされましたか?」

「…もう、10年近く連絡を取っていません。迷惑はかけたくないんです」

 

「そうですか。ですが、民法では親子や兄弟姉妹は互いに扶養する義務があると定められています。こちらで申請を検討するにしても、まずはお子さんに状況を説明し、援助が可能かどうかを確認させていただくことになります」

 

生活保護の申請では、親族からの支援を受けられるかを調べる手続きが行われます。原則として、三親等以内の親族に、精神的・経済的な援助が可能かどうかを問い合わせますが、昨今は照会によって家族関係が悪化する可能性を考慮して、照会を保留するケースも増えているといいます。

 

「現在の預貯金は、50万円強ある、と。それでしたら、まだ生活を維持できると判断されます。この貯金が尽きてから、ということではなく、まずはご自身でできる限りのことをしていただくのが前提となります」

 

そして、最後に告げられたのは、あまりにも非情な一言でした。

 

「現時点の状況では、申請は難しいです、無理ですね」

 

その言葉は、何とも事務的に聞こえたといいます。「いっそのこと、ぱぁーと貯金を使い切ったほうが、生活は楽になるんでしょうか。この先、どう生きていけと……」。よし子さん、ため息がとまりません。なすすべなく役所を後にしたよし子さんの足取りは、来たときよりもずっと重く感じられました。これからどうすればいいのか。誰にも頼れず、最後の砦だと思っていた行政にも突き放された絶望感だけが、心に広がっていきます。

 

今回、よし子さんは最低生活費以上の貯金があり、申請基準を満たさないと判断されました。一方で、生活保護の申請においては、生活保護の申請をさせないように指導や助言を行う「水際作戦」が後を絶ちません。福祉事務所とのやり取りは複雑なことも多いので、生活相談員や弁護士など、誰かと同伴してもらうのがおすすめです。

 

[参考資料]

厚生労働省『2022(令和4)年 国民生活基礎調査』