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収入増の裏側、世帯内で広がる「賃上げ格差」の影
消費の動向を左右する最大の要因は、言うまでもなく収入です。今回の調査では、勤労者世帯の実収入が前年同月比で実質0.0%と、辛うじてマイナスを回避しました 。春闘での高い賃上げ率が報じられるなか、その恩恵がようやく統計にも表れ始めたといえそうです。事実、世帯主の定期収入は実質0.2%増と、4ヵ月ぶりにプラス圏に浮上しています 。
しかし、この結果を手放しで喜ぶことはできません。家計の内実に目を向けると、深刻な問題が浮かび上がってきます。それは、世帯主の収入が持ち直す一方で、配偶者の収入が実質8.8%減と、4ヵ月連続で大幅なマイナスを記録している点です 。これは、パートタイムで働く配偶者などが「年収の壁」を意識して就業調整を続けている可能性や、非正規雇用の賃金上昇が正規雇用に比べて遅れている実態を反映している可能性があります。
つまり、世帯の大黒柱である世帯主の給与は上がったものの、それを補ってきた配偶者の収入が落ち込み、世帯全体としてみれば賃上げの実感が希薄になっている家庭が少なくない、という仮説が成り立ちます。
この仮説を裏付けるように、いわゆる「手取り収入」である可処分所得は実質0.9%増と4ヵ月ぶりにプラスになりましたが 、収入の伸びが消費の伸びを上回ったことで、勤労者世帯の黒字額は112,339円に上っています 。消費性向(可処分所得に占める消費支出の割合)は76.4%と、前年同月から0.2ポイント上昇したものの 、依然として将来への不安からか、収入増がそのまま消費増には結びつかず、貯蓄へと回る傾向が続いていることを示唆しています。
今回の家計調査が示したのは、賃上げという明るい兆しがありながらも、物価高と世帯内での収入格差という根深い課題によって、本格的な消費回復への道のりが依然として険しいという現実です。一部の「コト消費」の活況は、経済の正常化に向けたポジティブなサインですが、それが社会全体へと広がり、持続的な成長軌道に乗るためには、賃上げの恩恵を配偶者や非正規雇用者を含む、より広い層に行き渡らせることが不可欠といえるでしょう。
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