「老後は安心して、ゆとりある暮らしを送りたい」――そんな願いを胸に、多くの人が選ぶ老人ホーム。しかし、理想と現実の間には、思いもよらぬ落とし穴が潜んでいることも。老後の住まい選びが直面する、見過ごせないお金のリアルに迫ります。
こんなはずじゃなかった…意気揚々と入居した「高級老人ホーム」で泣き崩れる〈年金月15万円〉90歳母。貯金も残りわずか「絶望と後悔」 (※写真はイメージです/PIXTA)

費用ネガのある老人ホーム…娘の後押しで入居

「これで安心ね。素敵なホームで、心穏やかに過ごせるわ」と笑っていたのに――。

 

90歳になる田中ハナさん(仮名)が老人ホームに入居したのは、さかのぼること10年前のこと。父(=夫)を亡くし、実家でひとり暮らしをしている母親を心配した長女の佳子さん(仮名・65歳)の提案でした。

 

「何かあってもすぐに行ける距離ではないので、母、1人の暮らしは不安でした。知人のお母様がホームに入っていたのですが、『最近の老人ホームはホテルみたいよ』と言っていたので、それであればいいかなと――」

 

気になったホームのパンフレットをいくつか取り寄せ、見学をして決めたのが、現在入居している有料老人ホーム。ロケーションは都心から少し離れた閑静な住宅街。「高級老人ホーム」と謳われるだけあって、共用スペースは広々としており、毎日レクリエーションが開催され、食事も一流ホテル並みだと評判でした。

 

実際に見に行ったところで、ひと目惚れ。ただし、年金月15万円ほどのハナさんには、予算オーバーでした。月額費用とその他費用を含めると、年間200万円の取り崩しが発生します。

 

「さすが高級老人ホームだけあって費用は高かったのですが、母の貯金額であればギリギリ大丈夫かなと。母は『あなたたちに何も残せなくなっちゃう』なんて言うから、『お金なんて使い切っちゃいなよ』と言ったんです」

 

佳子さんの後押しもあり、気に入ったホームへの入居を決意。ハナさんは新しい環境にすぐに馴染み、趣味の園芸を通じて新しい友人を作り、毎日を楽しそうに過ごしていました。

 

「最後の贅沢だもの、ケチらなくてよかったわ」

 

しかし、その平穏な日々は終わりを告げます。