年金の受け取りを「65歳から」始めるか、「繰下げ受給」で遅らせて増額を狙うか――。多くの人が悩むこの選択には、人生設計や家族の状況、健康状態など、さまざまな要素が影響します。実際に繰下げ受給を選んだ男性たちの体験談を通じて、年金受給のタイミングが老後の安心や後悔にどのように関わるのかを考えてみましょう。
65歳で「年金月17万円」だったが、70歳の「年金受取額」に歓喜。初回振込額に興奮も、75歳男性が「早く年金をもらっておけば…」と後悔するワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

年金増額で安泰のはずが…老後が一変「早く年金を受け取っていれば」

ただ、年金の月受取額が増えたことの喜びは束の間でした。

 

「年金を受け取り始めたあと、すぐに妻がくも膜下出血で倒れて……後遺症が残って、何をするにしても人の手が必要な状態です」

 

これから夫婦で穏やかな老後を過ごす、そう思っていた直後の想定外。ほぼ寝たきりとなった妻の姿を眺めては、「老後に対して過度に心配するのではなく、どう過ごしたいのか、考えたらよかった」と後悔の言葉がこぼれるといいます。

 

さすがにこのような想定外は誰もわかるはずがありません。しかし受取額の増額ばかりが注目される「年金の繰下げ受給」ですが、メリットだけでなくデメリットもあります。

 

繰下げ受給のデメリット①長生きしないと「元が取れない」

65歳で年金を受け取った場合と、70歳まで繰り下げた場合を比較すると、受取額の総額が繰下げした場合が上回るのは81歳前後。それより先に亡くなると、65歳で受け取っていた場合のほうが多くなります。

 

繰下げ受給のデメリット②「税金や保険料」が増える場合がある。

年金額が増えると、それに応じて所得税・住民税も増えます。また、後期高齢者医療保険料や介護保険料の負担額が増えるケースも。一定以上の所得になると、医療費の自己負担が1割→2割に上がることもあるので注意が必要です。

 

繰下げ受給のデメリット③遺族年金や配偶者への影響

年金の繰下げ中に亡くなると、年金は一切受け取らずに終わることになります。また、遺族年金や加給年金に影響が出る可能性があるため、家族の年金計画との兼ね合いも必要です。

 

昨今、「長生きリスク」への備えのひとつとして、「繰下げ受給」のメリットに焦点が当たるようになりました。しかし何事にもメリットしかない、ということもありません。制度上のデメリットはもちろんのこと、結局は、年金を65歳から受け取るのがいいのか、それとも繰下げ受給を選んだほうがいいのか、個人によって異なるうえ、状況によっても捉え方は変わるでしょう。

 

――繰下げ受給を選択してよかった!

――繰下げ受給を選択しなきゃよかった!

 

どちらの意見も色々と聞けるので、それらを参考に、自身はどう思うのか、じっくり考えて決めるべきです。

 

[参考資料]

日本年金機構『年金の繰下げ受給』