デジタル機器の普及とともに、昨今は銀行のサービスもデジタル媒体へ移行しています。老後の生活のためにライフプランや資金形成の話し合いをすることはあっても、管理方法についてはどうでしょう……。意外なところで大きな障害を抱えることになるかもしれません。本記事ではAさん夫婦の事例とともに、デジタル機器が引き起こした資産管理トラブルについて、株式会社アイポス代表の森拓哉CFPが解説します。
銀行員「恐れ入りますが、お手続きできません」…年金月29万円・高齢夫婦、75歳夫の口座凍結危機を打破した73歳妻。その後に待ち受けていた〈取り返しのつかない事態〉【CFPが警鐘】 (※写真はイメージです/PIXTA)

理想の暮らしのために選んだ、銀行からの借入れ

銀行に相談したところ、リバースモーゲージローンの説明を受けます。

 

リバースモーゲージローンとは、自宅を担保にして借り入れるローンの一種です。このローンの特徴は、自宅に住み続けているあいだに返済するものは毎月の利息のみで、居住者が亡くなったときに担保にした自宅を売却して元金を一括返済できる点です。担保評価が思うように得られないなどの課題はあるものの、自宅に住み続けながら手元の資金を充実させる方法として徐々に認知と利用が進んでいます。

 

Aさん夫婦の自宅は、駅から比較的近く、免許返納後も利便性がよいという理由などもあり、今後も住み続けたいという気持ちが強くありました。また、この立地のおかげで担保評価も上々です。息子に自宅を残す必要もありません。

 

一度家に持ち帰って夫婦で相談しました。手元資金を気にせず自由に旅行を楽しみ、介護費用の心配から解放される目的から、リバースモーゲージローンを選択することに抵抗はありませんでした。

 

融資手続きと一緒に勧められた手続き

自由に使える資金が手元に増える、ということでAさん夫婦は意気揚々と再度銀行に赴きます。担当者からは、「当行で融資をする場合、必ずデジタル通帳へ切り替えていただいています。そのほうが便利で特典もついていいですよ」と説明を受けました。デジタル通帳の内容はあまり詳しくわかっていませんが、Aさんはパソコンの扱いにも慣れているので、まあ大丈夫だろうと手続きに応じました。

 

また、「配当金が毎年もらえる運用商品があります。普通預金に置いておいても利息がほとんどつきませんから、運用されてはいかがでしょうか?」と毎年分配金が出るタイプの投資信託を勧められました。手元資金に余裕を感じたAさんはこれにも応じます。

 

こうしてAさん夫婦の新たな生活が始まったのです。

 

融資を受けたあとAさん夫妻は、一度は行きたかったヨーロッパへの旅行を実現します。旅行でまとまった金額を支出しましたが、万一の介護資金に大きな不安はありませんでした。