老後、誰もが直面しうる年金と介護の問題。長年連れ添った配偶者の介護に身を捧げた結果、生活費の枯渇という厳しい現実が待ち受けることがあります。年金収入だけでは生活が立ち行かず、貯蓄も尽きたとき、「生活保護」という最後のセーフティネットを頼ることもあるでしょう。しかし、その申請の道は平坦ではありません。
〈年金月7万円〉75歳女性、78歳夫の介護に尽くした末路は〈貯金ゼロ〉…ギリギリまで追い込まれた老後に号泣「どう生きていけばいいのか」 (※写真はイメージです/PIXTA)

貧困高齢者に立ちはだかる生活保護申請の壁

――生活できないのであれば、生活保護を申請したら?

 

誰もがそう思うかもしれません。生活保護は、日本国憲法第25条で定められた「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」に基づいて、国が生活に困窮するすべての人に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、自立を助長することを目的とした制度。病気や高齢、失業など、様々な理由でどうしても生活が立ちゆかなくなった場合に、国が最低限の生活費を保障し、自立できるように支援してくれる仕組みです。

 

厚生労働省『被保護者調査』によると、2025年2月時点、生活保護を受けている人は199万8,606人/164万6,229世帯。そのうち高齢者世帯は89万7,525世帯と、半数以上を占めています。

 

実は久美子さん、一度、生活保護の申請を試みたことがありました。しかし、何度か役所に足を運び、申請書類に記入しましたが、「持ち家でなくても、扶養義務者がいるならすぐには認定できません」といわれ、手続きはなかなか進まなかったとか。

 

「うちの息子は、自分たちの生活のことで精いっぱいで援助なんて期待できないといったのですが、それでも『確認が必要です』といわれて、遅々として進まなかった。だからもう生活保護に頼るのは嫌なんです」

 

金融広報中央委員会の調査によると、貯蓄がない70代の単身者は26.7%、2人以上世帯は19.2%。十分生活できるだけの年金を受け取っているなら問題ありませんが、多くの年金生活者が「年金だけで生活するのは難しい」と口を揃えていっていることを考えると、貯蓄なしに老後を生きていくのはどれほど厳しいか、言うまでもありません。

 

久美子さん、まさに手詰まり。気が付くと「どう、生きていけばいいのか」と涙があふれる――そんな毎日だったといいます。

 

このような状況下、地域の民生委員が声をかけてくれました。そして久美子さんの状況を知るや否や、「もう一度、一緒に生活保護の申請をしましょう」と言ってくれたといいます。

 

生活保護の申請において、役所によって、場合によって担当者によって対応が異なることはよく知られた話。不正受給の防止意識の過剰な働きかけから、いわゆる「水際作戦」が行われ、それにより申請を断念するケースは珍しくないのです。そこで、地域住民の生活に関する相談に乗ってくれる地域福祉のボランティアである民生委員や、NPO法人・支援団体などを伴って申請に訪れることが有効だといわれています。また弁護士に相談するというのも手。費用面で不安はあるものの、法テラス(日本司法支援センター)を利用することで、弁護士費用の援助を受けられる可能性があります。

 

久美子さんのような人々が、「もう限界」と声を上げる前に、支援につながる道が必要です。孤立させない社会、貧困に陥らない老後、それを実現するのは、社会の課題といえるでしょう。

 

[参考資料]

厚生労働省『被保護者調査』

金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査』