
夫の介護に明け暮れた10年、気がつけば貯金は底を尽き
「年金だけで、どう生きていけばいいのか……」
郊外の市営団地に住む、大森久美子さん(仮名・75歳)。さかのぼること10年前、夫の徹さん(仮名・享年78歳)が脳梗塞で倒れ、一命は取り留めたものの、後遺症が残ってしまいました。それ以来、久美子さんはずっと在宅での介護を続けてきました。
倒れる前、徹さんは建設会社を経営していましたが、昨今は経営が厳しく、万一の備えは最低限だったとか。夫婦ふたりで受け取っていたのは、満額の老齢基礎年金、月14万円、ひとりわずか7万円ほど。日々足りない分は貯蓄を少しずつ、少しずつ取り崩して何とかやりくりをしてきたといいます。
「子どもは独立して頑張っているけど、大変そうで――とても頼ることはできなかった」
徹さんの介護が始まった当初は、訪問介護やデイサービスなどの介護保険サービスも利用していましたが、それでも日々の付き添いは欠かせず、久美子さんはパートにも出られなくなりました。特に夜間の付き添いが必要になってからは、寝不足が続き、体調を崩すことも増えたといいます。
「誰にも頼れない。施設に入れるお金もない。じゃあ私がやるしかないでしょう。そう思って頑張ってきたんですけど……」
夫の介護を続けること10年。徹さん、79歳の誕生日まで数日というところで息を引き取りました。「徐々に弱々しくなっていく夫をみていて、覚悟はしていたのですが――やっぱりツラいものですね」とポツリ。それ以上に不安だったのが、今後の生活。10年間、貯蓄を取り崩しながら介護生活をした結果、預貯金はほぼ底を付いてしまいました。生活費は年金月7万円のみ。それで家賃や水道光熱費といった固定費を払い、さらに食費、生活雑貨、医療費などを賄う――。とても無理な話です。
「せめて持ち家であれば違ったのかもしれません。買えるときに買えばよかった……完全に生活設計を間違えましたね」