長寿化が進む現代社会において、多くの人が迎えることになる高齢期。これまで過ごしてきた住まいに不安を感じるケースも珍しくないでしょう。そんな高齢者の住まいとして存在感を増しているのが「老人ホーム」です。なかには、一緒に入居する夫婦も。しかし、そこには思わぬ落とし穴が潜んでいました。
「年金月20万円」75歳夫が心筋梗塞で急逝。想定の7分の1の「遺族年金」に72歳妻、絶望。さらに「老人ホーム月料金値上げ」の追い打ちに「どう生きていけばいいのか」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「遺族年金は4分の3もらえるはず…」の誤算

浩一さんの死後、ホームからは1人部屋への転居を提案されました。月額費用は23万円だといいます。

 

今後のことを考えているとき、恵子さんは「遺族年金は夫の年金の4分の3がもらえる」と聞いていたことを思い出します。浩一さんは月20万円の年金を受け取っていた。つまり自分が受け取っている年金と合わせて月31万円になり、老人ホーム費用は十分払っていけるとホッとしたといいます。しかし現実は違いました。

 

年金の手続きをしに年金事務所を訪れたとき、遺族年金制度の概要と、おおよその年金額を教えてもらいます。結果、想定していた金額の7分の1でしかなかったのです。

 

「遺族年金は夫の年金の4分の3がもらえる」。これは正しくは「遺族厚生年金は夫の老齢厚生年金の4分の3がもらえる」。つまり月20万円から老齢基礎年金を引いた額の4分の3ということになります。

 

さらに受け取る人が老齢厚生年金を支給されている人であれば、「①亡くなった人の老齢厚生年金の4分の3」と、「②亡くなった人の老齢厚生年金の2分の1と、自身の老齢厚生年金の2分の1を足した額」を比べて多いほうが、遺族厚生年金額になります。恵子さんの場合は②となり、月11万円。

 

しかしこれで終わりではありません。原則、遺族年金を受け取る人の老齢厚生年金は全額支給。遺族厚生年金は老齢厚生年金との差額分しか受け取ることができません。単純計算、11万円のうち、2万円程度しか受け取れないということになります。

 

何とも複雑な遺族年金の支給ルール。月15万円だと思っていた遺族年金が、月2万円……7分の1以下という事実に言葉を失くした恵子さん。自身の分と合わせても、年金は月18万円。老人ホーム側から提示されている月額費用とは大きな乖離があります。

 

「いつまでここにいられるか――」と不安を抱きながら、一人部屋へ転居。しかしこの春、ホーム側から月額費用の値上げが告知されました。この物価高に対応するために月2万円の値上げ。ただでさえ毎月5万円以上の取り崩しがあるのに、さらに2万円プラス。

 

「この先、どう生きていけばいいのか――」

 

色々と悩みましたが、ついに浩一さんと過ごしたホームから転居することを決意。自身の年金だけで入居できる施設を探しているといいます。

 

[参考資料]

出所:株式会社LIFULL senior/LIFULL 介護『介護施設入居実態調査 2025』