かつて一定の地位や収入を得ていた成功者でも、老後、想定外の困難に直面するケースも珍しくありません。なかには「生活するのも精いっぱい」と、窮地に追い込まれることも。そのとき選択肢になるのが「生活保護」ではありますが……。
悔しい…〈年金月7万円〉74歳の元会社代表の男性。引退後は悠々自適の毎日のはずが、金策尽きて呆然「生活保護を受けるしかないのか」 (※写真はイメージです/PIXTA)

金策尽きても「生活保護」という選択肢に拒否感

わずかに残っていた貯蓄を取り崩すにも、限界が訪れます。「もうお金がない――」となったとき、知人に助けを求めます。

 

「すまん、お金を貸してくれないか」

 

しかし返ってくる答えは、「自分も生活が苦しい」というものばかり。この物価高、年金を頼りに暮らしている人たちはみな、苦境に立たされていたのです。結局、金策はうまくいかず、米びつからは米が消え、近所のスーパーに買い物にいっても見切り品でさえ躊躇するように。

 

「年を取れば医療費がのしかかってくる。病院通いも増えるし、薬も欠かせない。毎月、削れるところは削っているが、それでも足りない。どう生きていけばいいのか――」

 

万策が尽き、生活保護という言葉が頭に浮かびました。しかし、永井さんの心には抵抗感がありました。

 

「長年、会社を経営してきた。その自分が生活保護の世話になる――どうしてもプライドが邪魔をしていた部分はありました」

 

しかしプライドよりも先に永井さんは体調不良で救急搬送。病院で「軽い栄養失調です」と告げられ、生活保護の申請を決意します。

 

日本の生活保護の捕捉率(=制度対象となる可能性がある人のうち実際に受給している人の割合)は2割程度と、欧米などと比べて非常に低いとしてきされています。そこにあるのは、制度の認知度不足、そして制度に対する偏見。

 

「一時期、生活保護の不正受給など騒がれたことがありましたし、最近も『生活保護受給者のほうが良い暮らしをしているのはおかしい』などと、批判されることがありましたよね。そういうのを見ていると、どうしても生活保護の申請には二の足を踏んでしまい――」

 

厚生労働省によると、生活保護の不正受給は生活保護費全体に対して0.2~0.5%。近年増加傾向にあると報道されたこともありましたが、目立った増加は見られません。しかし、どちらかといえばネガティブなニュースが多く、永井さんのように「生活保護を受けたくても受けられない」というケースも珍しくないのが現状です。

 

「生活保護といっても、受け取れるのは数千円です。それでもこれで5キロの米が買えます。これだけあれば、1ヵ月は暮らせる。本当にありがたい」

 

安堵の表情を見せる永井さん。体調が戻ったらアルバイトを探して、生活保護からは脱したいと話しています。

 

[参考資料]

総務省『家計調査 家計収支編 2023年』