日本の公的年金制度は、国民年金と厚生年金の2種類があります。公的年金を受け取るのは老後だけではありません。一定の障害状態であると認定された場合に給付される障害年金や、亡くなった方の遺族に給付される遺族年金も、その後の生活を支えるための公的年金です。しかし、現行の遺族年金制度には落とし穴もあって……。本記事では清水さん夫妻(仮名)の事例とともに、遺族年金の仕組みについてFP dream代表FPの藤原洋子氏が解説します。※個人の特定を避けるため、内容の一部を変更しています。
家賃5万円のタワマン住まい〈世帯年収1,000万円・仲良し夫婦〉35歳夫が急死…29歳新妻、“まさかの遺族年金額”にさめざめ「情けをかけてくれてもいいのに」【FPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

遺族年金はいくらもらえる?20代妻が直面した厳しい現実

真由さんは「遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方が受け取れる」「遺族年金だけで生活できる」そう考えていたようです。しかし現実は、真由さんにとって厳しい内容でした。

 

遺族基礎年金の金額

真由さんにお子さんはいないので、0円となり支給されません。

 

遺族厚生年金の金額

竜也さんの老齢厚生年金の報酬比例部分の計算において、厚生年金の被保険者期間が300月(25年)未満なので、300月として計算し、その4分の3の金額が支給されます。

 

両方を合わせて、真由さんが受け取る遺族年金の金額は66万円、月に5万5,000円であることがわかりました。また、お子さんのいない29歳の真由さんは、5年間のみの支給期間になります。

 

「これだけ……。しかも私の場合は5年間だけなんだ……。もう少し情けをかけてくれてもいいのに……」真由さんは静かに涙を流しました。

 

真由さんの手元には、二人の貯蓄と生命保険などを合わせて2,000万円があります。そのお金は真由さんの生活を立て直すための資金としては有効ですが、生涯過ごすためには、かなり不足する金額といわざるを得ないでしょう。

 

真由さんの両親は、夫を失った一人娘を心配していました。両親と過ごす日々のなかで真由さんは「悲しむ両親の顔をみたくない」「これ以上心配させてはいけない」と強く思うようになったといいます。竜也さんの一周忌を済ませたあとは、再就職し実家を出て暮らしはじめました。

見直しが検討されている遺族厚生年金制度

現行の遺族厚生年金制度には、支給に男女差があり、子のない夫は遺族厚生年金を受け取ることができないケースもあります。それらの現状や女性を取り巻く環境の変化を踏まえ、2025年の年金制度改正に向けて、「20代~50代に死別した子のない配偶者の遺族厚生年金」を改正するという方向で進められています。

 

議論されている遺族厚生年金の見直しについての主なポイント

〇現行では30歳未満の妻が対象となっている「5年間の給付」を30代以上へ、時間をかけて引き上げを行う。

〇配慮が必要な方は、5年間の給付終了後も支給を継続する。

〇子のある55歳未満の夫にも遺族厚生年金を支給する。

〇中高齢寡婦加算を段階的に廃止することを検討する。

〇生計を維持されている者の収入要件を撤廃する。

〇現行の遺族厚生年金額に有期給付に伴う加算を行い、生活再建をより支援できるようにする。

〇亡くなった被保険者の婚姻期間中の標準報酬等の分割を創設し、それによって分割を受けた者の老齢厚生年金額を増やす。

 

養育すべき子がいる世帯の遺族厚生年金や、高齢になって発生する遺族厚生年金については、現行の制度が維持されるようです。年金制度改正の具体的な内容や施行される時期などについて、今後も注視していきましょう。生活設計の見直しを行うなど、変化に対応できるように準備が必要であると考えられます。

 

〈参考〉

※1 厚生労働省 [年金制度の仕組みと考え方]第13遺族年金
  https://www.mhlw.go.jp/stf/nenkin_shikumi_013.html
※2 日本年金機構 
  https://www.nenkin.go.jp/service/yougo/hagyo/hoshuhirei.html
※3 厚生労働省 遺族年金制度等の見直しについて2
  https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001348966.pdf

 

 

藤原 洋子

FP dream

代表FP