サラリーマン人生の終わりがみえてくる50代。若いころに夢見ていたことを諦めたり忘れたりしている人が大勢います。一方で、50代で自分を変える準備を整える人も。本記事では、保坂隆氏の著書『精神科医が教える 50代からの心おだやかな暮らし方』(有隣堂)より、3人の事例から50代からのキャリアチェンジにおける可能性を探ります。
さあ、これからは生きたいように生きるぞ…50代商社マン、退職金の半額を残すことが条件。妻に明かした定年後の「30年以上引きずる夢」 (※写真はイメージです/PIXTA)

若いころにあきらめた夢

若い頃にあきらめた夢を定年後に実現最後の3人目は、定年後に大きな再出発をした話で、50代のうちから定年後のことを考えて準備することの大切さを示す例として紹介します。

 

好きなことをあきらめて、会社員としての道を歩んできた人も少なくないと思います。Fさんは、子どもの頃からとにかく手を使って何かをつくることが大好きで、高校生になった頃からは仏像に魅せられ、大学進学にあたって「将来は仏像彫刻師になりたい」と強く希望していました。ところが、親の大反対にあい、結局、大学では経済学を専攻して、卒業後は中堅の商社に入社したそうです。

 

その後、結婚し2人の子どもを独立させ、定年まで勤め、「さあ、これからは本当に生きたいように生きるぞ」と決意します。

 

退職金の半分を渡すことで奥さんも納得してくれ、めでたく美術大学へ40年遅れの入学。社会人入学をする人が増えていて、同級生にも中高年がたくさんいて、心強かったようです。

 

小さな仏像なら以前からちょこちょこ彫っていたというので、大学に通って専門教育を受け、基礎的な技術を身につけるうちに長い間眠っていた才能が目覚め、しばしば学内の賞をもらうまでになります。卒業記念の大作は、出身地の県展で知事賞に次ぐ賞を受賞し、県が買い上げるという栄誉にも輝きました。

 

作品が認められ、自信を得た彼は、自宅の一室を制作室にリフォームし、彫刻家としての力を試すかのように、さらなる大作にもチャレンジするようになっていきます。そうしてできた作品を檀那寺に寄進したところ、好評を得て、同じ宗派の寺から、仏像の制作依頼まで飛び込んでくるという、ありがたい展開もありました。彼は今日も自分のアトリエで、仏像を彫る幸せな時間を過ごしています。

定年後、天職と出会うには

いかがでしょうか。早期退職、現在のキャリアを活かした新たな学び、定年後の大いなる再出発――3人とも、しっかりと「本当に自分がしたいこと」「今まで得てきたこと」と向き合い、人からの評価ではなく、「自分軸」で考え、行動した結果、天職に巡り合えました。

 

今の職場に留まる、離れる――どのような選択でも、自分軸で考えることで人生はどんどん開けていく、ということの一例として心に留めておいてください。

 

 

保坂 隆
保坂サイコオンコロジー・クリニック
院長

 

※本記事は『精神科医が教える 50代からの心おだやかな暮らし方』(有隣堂)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。