(※写真はイメージです/PIXTA)
「相続放棄」は3ヵ月以内に…期限を逃すとすべて引き継ぐことに
日本の民法では、被相続人(亡くなった人)の財産はすべて相続人に承継されます。これはプラスの財産だけでなく、借金などマイナスの財産も含まれることが重要なポイントです。
相続人には、「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つの選択肢があり、相続放棄をする場合には、相続が開始したことを知った日から3ヵ月以内に、家庭裁判所へ申述する必要があります(民法第915条)。相続放棄は原則として、相続放棄を撤回することはできません。また自身が連帯保証債務を負っている場合には、相続放棄をしたとしても、連帯保証債務は影響を受けず、引き続き責任を負うことになります。
このような制度自体を知らず、さらに借金の存在に気づかなかった斎藤さんは、放棄の申請期限を過ぎてしまったわけです。
「相続といっても、大した遺産はないだろうと父の通帳も郵便物も、ちゃんと見ていなかった。まさか1,000万円もの借金があるなんて……。世の中、値上げ値上げで生活が苦しいとはいっていたけど、年金もあり、特に支援も求められなかったので。なんか、騙された気持ちですよね」
借金の原因は、実家のリフォーム費、友人との交際費など。何のためにお金を借りたのか、追えるものは追いましたが、理由が不明なものも。
「もしかしたら、まだ知らない借金があるんじゃないのか……そんなことを考えると不安で仕方がありません」
父親は父親なりに「迷惑をかけまい」と1人で抱えていたのでしょう。とはいえ、息子に相談するでもなく、借金を隠したまま亡くなってしまえば、その尻ぬぐいは家族がするしかありません。
斎藤さんは、残りのローンを分割で支払う道を選ばざるを得ませんでした。老後資金として積み立てていた分を取り崩し、車の買い替えを考えていましたが、当然延期に。月々の支出を切り詰めながら、何とか払っていくことにしました。
「私はひとり暮らしの父親を心配して、気を付けているほうだと思っていました。しかし、父親のことは全然知らなかった、ということですよね」
「うちは大丈夫」と思い込むことは、相続において最大のリスク。親がどれだけきちんとした生活を送っていたとしても、借金がない保証はどこにもありません。相続放棄の3ヵ月というタイムリミットは、待ってはくれません。相続放棄を検討する際には、まず親の通帳・カード類・郵便物などから金銭状況を整理し、場合によっては過去の信用情報を開示請求するなど、「借金がある前提」で慎重に確認することが求められます。
[参考資料]
法テラス『相続放棄に関するよくある相談』
e-GOV法令検索『(相続の承認又は放棄をすべき期間)民法第九百十五条』