かつては「定年=引退」でしたが、現在は9割の人が定年を迎えてもなお、働き続けることを選択しています。一方で、役職や年収に誇りを持って歩んできた人たちが、再出発を機に足をすくわれるケースも。
甘く考えていました…「月収62万円」「退職金2,600万円」の定年管理職、転職目指すも書類審査150件全滅、「時給1,480円」にすがるしかない厳しい実態 (※写真はイメージです/PIXTA)

「まだ働きたい」というシニアと、「働いてもらいたい」企業の間に広がる溝

岡本さんのように、60歳以降も働く意思と体力を持つ人は多くいます。2025年4月から、高年齢者雇用安定法の改正により、企業は65歳までの雇用確保が義務となりました。また70歳までの就業機会の確保は努力義務となっています。しかしこれは、社内での継続雇用を意味しており、岡本さんのように定年退職後、他社での再就職を目指す人々にとっては、話が別です。

 

企業側のニーズは、即戦力、若年層、柔軟な労働条件に応じられる人材へとシフトしています。過去の職位や高い給与水準がかえって「高コスト」と見なされ、採用されにくくなるケースも少なくないのです。

 

前述のように、岡本さん自身も「自分のような人材は、もういらないのかもしれない」と自信を失いかけました。「退職金もあり、生活に困窮しているわけではないから、面接でも必死さが足りないと思われたのかもしれません」と振り返ります。

 

シニアにおいては、求職者側の「まだ働きたい」という意思と、企業側の「働いてもらいたい」の人物像が一致していない場面が少なくありません。長年の経験や管理職としてのスキルが、現場仕事では活かしづらいという構造的な問題もあります。

 

とはいえ、希望がないわけではありません。シニア向けの就労支援サービスや、再就職を後押しする公共職業訓練の制度も整いつつあります。岡本さんは倉庫の仕事に慣れたなかでも、独学で最新のITスキルを身に付けようと目指しているといいます。

 

「いつまで働けるかわからないけれど、人生100年時代、自分でも驚くような年齢まで活躍できる可能性がある。定年にこだわらず、自分の価値をいつまでも磨いていきたいと思います」

 

そう語る岡本さんは、第二の人生を模索しながら、今も前を向いています。

 

[参考資料]

総務省『労働力調査(2024年)』