「老後は家賃の心配がない持ち家が安心」――そんな考えから、退職後にマイホーム購入を決断する人は少なくありません。しかし、住まいにかかる負担は「買って終わり」ではないのが現実です。見落とされがちなコストと、その先にある思わぬ落とし穴が、高齢世代の生活を揺るがしています。
バカでした…「年金月18万円」・「退職金2,400万円」66歳男性、老後を見据えて3,000万円のマンション購入。賃貸暮らし脱却も「私の選択は間違えていたのでしょうか」と後悔のワケ ※写真はイメージです/PIXTA

家計を圧迫する「管理費・修繕積立金」の値上げ

加えて、昨今の物価高騰が生活費にも直撃しました。電気・ガス・食料品など、日々の支出はじわじわと増え、年金18万円(実質手取りは15万円程度)だけでは生活が回らない月もあるといいます。

 

住まいに関わる費用は、購入すれば終わるというわけではありません。 国土交通省『令和5年度マンション総合調査』によると、分譲マンションにおける戸当たりの管理費の平均は月1万7,103円。また修繕積立金の平均は月1万3,378円でした。

 

また、株式会社マーキュリーは、新築分譲マンションの管理費・修繕積立金が10年間で約40%上昇したと発表しました。マンションに住んでいる以上は払い続けなければならない管理費・修繕積立金は、ずっと一定ということはありえないのです。

 

山本さんは、管理組合から配布された「今後30年間の修繕計画」を見て、さらに不安を募らせたといいます。築30年を超えれば、エレベーターや給排水管など、建物の基幹部分の修繕に多額の費用が必要になる可能性が高いからです。退職金の大半を投じたことで、山本さんの貯蓄は心許ない状況に。 「持ち家のほうが有利」とマンションを購入したものの、年々重くなるだろう固定費の負担に戦々恐々としているといいます。

 

「老後の心配をなくすつもりだったのに、逆に動けなくなってしまった」 と管理費の通知を見るたびにため息が出るという山本さん。賃貸であれば、生活が苦しくなれば家賃の安い物件に引っ越すなど、柔軟な選択が可能でした。しかし分譲マンションの場合、引っ越すためには売却する必要があり、築年数が進むにつれて資産価値の下落も避けられません。

 

「私の選択は間違えていたのでしょうか――バカですね、本当に」

 

収入、資産状況、健康状態、家族構成など、さまざまな要素が絡み合って、人によって、またタイミングによって最適な住まいのカタチは変わります。今は「賃貸のほうがよかったのではないか」と後悔を口にする山本さんですが、5年後、10年後には「持ち家でよかった」と思うようになるかもしれません。

 

「持ち家か、賃貸か」――たびたび論争になりますが、永遠に答えはでないかもしれません。

 

[参考資料]

国土交通省『令和5年度マンション総合調査』

株式会社マーキュリー『新築分譲マンションの管理費、修繕積立金 10年間で約40%上昇。毎月の負担は5,606円増』