(※写真はイメージです/PIXTA)

副業としてアパート経営を始めたサラリーマン大家が、節税のつもりで経費計上した結果、税務調査の対象になってしまうケースがあります。修繕費と資本的支出の線引き、家族への給与支払い、領収書のない経費処理など、知らないと危険なポイントが多数。さらに、不動産所得の赤字を活用した損益通算や法人化による節税も、場合によっては裏目に出ることも…。田中康雄税理士が解説します。

法人化すれば得するとは限らない…法人活用の落とし穴

社会保険料の負担が増える

不動産所得では、事業的規模を満たさなければ、家族に給料を支払っても必要経費に含めることはできません。そのため、法人化して個人の不動産を法人に移せば、その家賃収入を原資に、労働の対価として給料を家族に支払っても費用処理できるメリットがあります。ただし、法人の場合には、必ず社会保険に加入しなければなりません。扶養の範囲内にいる家族を会社の代表者にして給料を支払うような場合には、社会保険上の扶養の要件から外れてしまい、社会保険料の負担が増えることにもなりかねないため、注意が必要です。

法人設立・運営コストが利益を圧迫

法人設立には定款認証や設立登記などのコストがかかり、また、個人名義の不動産を法人名義に変えれば、改めて不動産取得税が課されます。法人化すると、上記のように家族に給料を払えたり、会社名義で生命保険に加入できたりするほか、将来的には退職金を支払えるなど、経費に計上できる範囲は広がります。

 

しかし、法人の場合、その税率は個人よりも比較的高めで、事業的規模でなければ課されることがない事業税も利益が出れば必ず課せられます。また、赤字であっても住民税の均等割の納税が避けられず、場合によっては個人よりも税金コストの負担を重く感じることもあるでしょう。

法人化後に不動産を売却したときの出口戦略を考えておかないと危険

個人の不動産事業を引き継いで設立した会社が、何年後かに地価の高騰等による利益を狙ってその不動産を売却することもあるかもしれません。このとき、過去からの赤字(欠損)がたくさん残っていれば別ですが、売却益に対してはダイレクトに法人税が課税されます。だからといってこれに充てるための経費をそのときになって探し始めても、すぐには見つかりません。

 

ただ、これに大きな効果を発揮してくれるのが退職金です。メインの資産が消えてしまった会社を将来的に活用する予定がなければ、会社を畳むという決断も一つの選択肢になります。会社が解散、清算に入れば、これまでの会社への貢献に対して退職金が支払われても何も不思議ではありません。出し過ぎには注意が必要ですが、不動産を売却したことに満足をしてそこで何も手を打たなければ、予想外の納税が待ち構えているかもしれません。

 

田中康雄

税理士