奨学金制度は、進学の機会を与える一方で、当然ながら卒業後には長期にわたる返済義務が生じる。特に経済的な不安を抱える家庭にとってこの返済は、大きな足かせとなり、子どもの進学にも影響を与えかねない。本記事では、シングルマザーAさんの事例とともに、奨学金の支援措置について、アクティブアンドカンパニー代表の大野順也氏が解説する。
3人の子の44歳シングルマザー、68歳まで月2.7万円の借金返済・養育費ゼロ・老後資金ゼロだが…「奨学金を借りてよかった」と笑顔の理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

奨学金問題は社会全体で解決すべき課題

進学費用の調達手段としては、奨学金と教育ローンの利用が一般的である。通常、奨学金は学生本人が、ローンは保護者が契約者となるため、誰が返済責任を負うのかを事前にしっかりと把握しておく必要がある。また、ローンは借入額や利息の高さによって任意整理の対象になり得るが、奨学金は利息が比較的低いため、任意整理のメリットが小さいとされている。

 

自分が奨学金を借りて進学したことにメリットを感じる親は、我が子も大学に行かせようと考える。Aさんのような状況は決して特別なケースではなく、実際「借金が多く奨学金の返済が困難で、自分の子どもにも奨学金を借りさせなければならないかもしれない」といった相談は後を絶たない。これは、経済的な困難が世代を超えて連鎖する、貧困の再生産とも捉えられる深刻な問題である。

 

深刻化する奨学金利用と企業による支援の必要性

JASSOによると、令和5年度には大学生の3人に1人が奨学金を利用しており、その一人当たりの平均借入額は約313万円に達している※1。少子化が進行する一方で、奨学金返還者の数は過去10年間で約100万人も増加しているという事実は、多くの家庭で経済的な余裕が失われ、教育費の捻出が困難になっている現状の表れではないだろうか。このような社会的な要因による経済的負担は、若者の将来設計、たとえば結婚や出産といったライフプランの形成を躊躇させ、自己投資やスキルアップへの意欲を減退させ、結果として国力低下にも繋がりかねない。

 

企業による奨学金代理返還制度への期待

この深刻な奨学金問題に対する解決策の一つとして、近年注目を集めているのが、企業による「奨学金返還支援(代理返還)制度」である。企業が従業員に代わって、JASSOへ直接奨学金の返還を行う2021年に創設された制度で、令和6年10月末時点で全国2,587社が導入している※2

 

奨学金返還者が増加している背景には、民間企業の採用動向も深く関与していると考えられる。依然として多くの企業が大卒以上の学歴を応募条件とするなかで、意欲や能力のある優秀な学生を採用しようとするならば、企業がその経済的な負担を軽減する、つまり奨学金の返還を肩代わりするという視点も重要になってくるのではないだろうか。

 

Aさんのようにすべての人が心の強さを持っているわけではない。「自己責任」の一言で片づけるべき問題ではないように思う。

 

そのためには、日本の将来を担う若者の経済的・心理的な負担を取り除き、自由なライフプランやキャリアを築き、消費を通じて経済を活性化させるためにも、企業による奨学金返還支援制度の一層の普及が強く望まれる。奨学金問題は個人の努力だけでは解決が難しい構造的な問題であり、社会全体が真摯に向き合い、具体的な解決策を実行していく必要に迫られているといえるだろう。

 

〈参考〉

※1  奨学金事業に関するデータ集 令和7年1月 独立行政法人 日本学生支援機構.2025-04.
  https://www.jasso.go.jp/shogakukin/oyakudachi/shogakukin_data/__icsFiles/afieldfile/2025/01/20/01_datashu.pdf,(参照2025-04-16)

※2  奨学金返還支援制度 独立行政法人 日本学生支援機構.2024-10.
  https://dairihenkan.jasso.go.jp/,(参照2025-04-16)

 

 

 

大野 順也

アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長

奨学金バンク創設者