就職氷河期、不安定な雇用、競争社会のプレッシャー……。様々な要因が若者たちを社会との接点から遠ざけ、長期化するひきこもり。彼らにとって、親に自分の意志や状況を伝えることは想像以上に難しいことかもしれません。本記事では、岡本圭太氏の著書『ひきこもり時給2000円』(彩流社)より、同氏の実体験からひきこもりの当事者と家族の葛藤をみていきましょう。
親はいつまでも生きていないぞ…叱責していた両親が早稲田大卒・氷河期世代の息子(当時24歳ひきこもり)に「お金」をあげたワケ ※画像はイメージです/PIXTA

「息が詰まる」家の中

そこで僕が医者に希望したのは、

 

1.自分の状態が何かを親に伝えてほしい
2.通院のための交通費や医療費は確保したい

 

というふたつだった。なぜお金のところにこだわったかというと、病院に通えなくなったらアウトだから。これができなくなったら非常にまずい。せっかく自分が助かる光明が見えたというのに、その唯一の糸すら切れてしまう。僕としては、そこはどうしても譲れない一線だったのだ。

 

医師からの説明の結果、親の対応は大きく変化した。以前のような突き上げもなくなったし、経済的な部分でも援助してくれた。脅かされない安心感があるから、家族との会話の量も増えたし、居間に降りていくことに恐怖を感じなくなった。そして何より、家の中の空気が変化した。端的に言うと、家の中で呼吸ができるようになった。そこで初めて僕は自覚できたわけだ。今まで気がつかなかったけれど、これまで自分は、家の中で呼吸ができていなかったのだと。「息が詰まる」という表現があるけど、これを考えた人は天才だと思った。まさにそういう感じなのだ。

 

両親が見せてくれた理解の態度には、今も本当に感謝している。やってもらって嬉しい支援はいろいろあるけれど、僕にとっては先のふたつがその筆頭。そしてこのふたつは、「家族にしかできない支援」なのだと思う。家族だって万能ではない。家族にできないことはほかの人たちに任せて、家族には「家族にしかできない支援」のほうに注力していただく。そういうのはどうでしょうか?

 

(2015年6月執筆)

 

 

岡本 圭太