かつて、マイホームは人生における一大目標であり、「一度手に入れたら生涯住み続けるもの」という考え方が一般的でした。しかし、家族構成の変化、通勤事情、経済状況……私たちの暮らしを取り巻く環境は常に変化し、住まいに求めるニーズも多様化しています。本記事ではAさん夫婦の事例とともに、「住み替え」を考えるときのポイントについてCFPの伊藤貴徳氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
世帯年収1,200万円・30代共働き夫婦、〈千葉の果て駅〉に1軒目マイホームよりスペックダウンの2軒目を購入。住み替えも…「幸せです」と笑顔の理由 【CFPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

子育て環境、通勤時間、家計の見直し…暮らしの「リアルな悩み」 

マイホームを購入することは、多くの人にとって人生最大の買い物といわれます。だからこそ、「一度買ったら一生その家に住む」と思いがちですが、実際の生活は予想どおりにはいかないこともあります。以下のような理由で、「住み替え」を検討する人が増えているようです。 

 

1.子育て環境の変化 

子どもが生まれたことで初めて、「この地域に保育園が少ない」「通園や通学に不便」「周囲に公園や子育て支援施設がない」などの課題に気づくケースは多くあります。 

 

また、共働き家庭が増えるなかで、子育てと仕事を両立させるには「自宅から保育園までの距離」「祖父母などサポートが受けられる距離感」「子どもが成長してからの通学環境」など、ライフステージに応じた柔軟な住環境の見直しが必要になることもあります。 

 

2.通勤・通学の利便性 

「毎日の通勤時間が片道1時間以上」「バスの本数が少なく、天候に左右される」など、交通アクセスに不便さを感じると、生活全体にストレスが溜まりやすくなります。特に、テレワークが定着した一方で、出社が必要な人にとっては、郊外よりも「利便性の高い場所」への住み替えが現実的な選択肢となっています。 

 

3.家計の見直しと生活コスト 

住宅ローンの返済額や固定資産税、光熱費、交通費など、実際に住み始めてから「想定外の出費」に気づくこともあります。 

 

「住宅の維持費が思ったより高い」「車がないと生活できず維持費がかかる」「子どもの教育費が想定以上にかかってきた」など、暮らしの変化に応じて家計を見直すなかで、「身の丈に合った家に住み替える」という判断をする人も少なくありません。 

あえて「スペックダウン」の家を選んだワケ

「広々とした間取り」から「コンパクトな住まい」へと移ることは、一見「後退」のように見えるかもしれません。 
しかし、実際にこのような住み替えを選ぶ人の多くは、こうした「スペックダウン」をネガティブではなく「暮らしの最適化」と捉えています。 

 

・家がコンパクトになることで、掃除や管理がラクになる 

・駅や商業施設に近く、日常の移動ストレスが減る 

・家計にゆとりが生まれ、趣味や教育費にお金を回せる 

・子どもとの時間、家族の会話が増える

 

必要なのは「大きくて新しい家」ではなく、「自分たちの生活に合った家」。 その考え方が、多くの人の住み替えを後押ししています。