海運会社に勤める加納さん(仮名・54歳)には、勉強ができて非行とは無縁、反抗期もほとんどなかった2人の息子がいます。ただ、加納さんはそんな“理想の子ども”だった息子たちの将来について「心配でたまらない」といいます。ルポライター増田明利氏の著書『今日、50歳になった 悩み多き13人の中年たち、人生について本音を語る』(彩図社)より、50代の“生の声”をみていきましょう。
お先真っ暗です…法科大学院卒の26歳長男、就活エリートの24歳次男、“よくできた息子たち”の「予想外の進路」に年収740万円・54歳父が悲鳴【ルポ】
次男が特殊なわけではない?打たれ弱すぎる若者の実態
加納さんは「そんなのたいした問題じゃないだろう」と思うが、自らの会社で次男と同年齢ぐらいの若手社員に聞いたところ、そういうことを異常なほど気にして根に持つ人が少なからずいると教えられた。
「うちの若手の話では小中学校では君付け、さん付けで呼ぶように指導されるし、あだ名を付けるのも禁止なんだそうです。注意や指導は1対1で他の子がいないところで。普通の公立校でもこうなんですって」
普通に「おい、〇〇」と呼び捨てで会話するのは高校生になってから。しかも極めて親しい間柄だけ。会社の若手によると、大学時代の同級生、サークル仲間には呼び捨てにされた、お前と言われたのがショックで退職した人が4、5人いると教えられた。
「我々の時代とは全く違うので面喰らいました。わたしらしく生き生きとか個の尊重というのは理解できるけど打たれ弱くなっていると思いましたね。まっ、こんなことを口にしたら老害と批判されるんでしょうが」
せっかく再就職できたのに人間関係の軋轢から半年でまた退職。現在はフリーター的な暮らしだそうだ。辞めたあともあの上司が悪い。職場環境が最悪だったと文句ばかり言っていたらしく、最近は家にも寄り付かなくなっている。
「今はとりあえず派遣社員をやっています。家電量販店に出店している携帯電話会社の営業ブースで販売や諸々の事務処理をやっているということです」
引きこもりやフリーターになるよりはましだが、先々のことを考えると大丈夫なのかと心配になる。
「正月に3か月ぶりに顔を見せたんですが生活ぶりを聞くとねえ……」
今はどのくらいの収入があるのか尋ねたところ、月収は24万円前後で手取りだと18万円ということだった。
「派遣会社の社会保険には入っているけど、賞与なし、退職金なし、派遣先に直接雇用される見込みもなし。これじゃ将来の展望を描けないでしょ」
社会人になってから住み続けているアパートは家賃が5万8,000円。水道光熱費、通信費も必要だ。自炊はしていないので食費その他の出費も小さくない。
「少しは貯金していると言っていましたが、マイホームの頭金になるような金額は作れないだろうし、病気やケガで2週間も休んだら雇止めになる。そしたら簡単に生活困窮者に転落ですよ。自分のリスクを分かっているのだろうか」