海運会社に勤める加納さん(仮名・54歳)には、勉強ができて非行とは無縁、反抗期もほとんどなかった2人の息子がいます。ただ、加納さんはそんな“理想の子ども”だった息子たちの将来について「心配でたまらない」といいます。ルポライター増田明利氏の著書『今日、50歳になった 悩み多き13人の中年たち、人生について本音を語る』(彩図社)より、50代の“生の声”をみていきましょう。
お先真っ暗です…法科大学院卒の26歳長男、就活エリートの24歳次男、“よくできた息子たち”の「予想外の進路」に年収740万円・54歳父が悲鳴【ルポ】
自分の暮らしはそこそこだが…54歳父が気がかりな「2人の息子」
氏名/加納正輝(54歳)
出身地/埼玉県深谷市
現住所/埼玉県志木市
最終学歴/93年大学卒
職業/海運会社管理職
年収/約740万円
家族構成/妻51歳(専業主婦)、長男26歳(無職)、次男24歳(派遣社員)
50歳になって思ったこと/子どもの頃は50歳というとおじいさん、おばあさんに近い印象だったので嬉しくはなかった。中年ではなく初老ですから
司法試験に2回落ち…弁護士を目指す26歳長男
仕事はそこそこ上手くやっている。健康面でも心配なことはない。妻との関係も良好だ。物流関係の会社で管理職を務めている加納さんは悩みや心配事とは無縁に見えるが、2人の息子のことが気がかりで、この先どうするつもりなんだと彼らの将来が不安で仕方ない。
まずは26歳になる長男のこと。この年齢になるのに弁護士を目指して司法試験浪人をしているという。
「法科大学院を卒業して去年、今年と司法試験を受けたけど駄目でして。本人はもう1回だけ挑戦したいと言っているのですが、親としてはもう見切りをつけて就職してほしいと思っているんです」
長男はかなり優秀らしく、県立のトップ高校から最上位ランクの私大の法学部に入り、更に法科大学院で勉強してきたという経歴。
「去年が初めての試験だったのですが一次の短答試験は突破できていた。今年は論文試験の対策もバッチリだと言っていたのですが一次の短答試験でしくじってしまいまして。半月ぐらい落ち込んでいました」
加納さんと奥さんを交えて今後のことを話し合ったところ、「ここで諦めたら今までやってきたことがすべて無駄になる。あと1回だけ挑戦したい」という強い意志があり、来年も受験することになった。
「親としては応援してやりたいけど心配ですよ。所属がない、収入もほとんどない、社会保障も貧弱なのだから」
1日10時間自室にこもりきり…“まるでご隠居”な息子の暮らし
現在の長男の暮らしぶりはどうかというと、ほぼ1日中自室で法律の専門書、過去問集と向き合っている。
「たまに図書館の自習室へ行って気分転換しているみたいですが、丸1日部屋に籠って誰とも喋らない日もある」
1日の勉強時間は10時間。食事も自室で本を読みながら済ましている。ひきこもりよりましだが親としては心配だ。
「食と住は面倒見るけどそれ以外は自分でやれということで、土日だけ病院の夜間受付をやっている。だけど月収にしたら8万数千円、これでは蓄えを作るなんて無理だし」
自分で自治体の国民健康保険と国民年金に加入して保険料はきちんと払っているようだが、生命保険や疾病保険などには入っていない。
「26歳の青年ならお洒落に興味もあるだろうけど、長男が散髪するのは2か月ごとに1,400円のカットハウスに行くだけ。冬場は毛玉だらけのセーターの上に半纏を羽織っている。昔のご隠居さんみたいですよ」
家族以外の人間関係は希薄で、誰かから電話がかかってきたことはないし、去年も今年も年賀状は1枚も来なかった。当たり前だが恋人やガールフレンドもいない。
「次も不合格だったらもうお終いだよと言ってあります。浪人も留年もしなかったけど来年11月には27歳になってしまう。この年齢で定職がなく、いつ受かるか分からない試験に挑み続けるのはリスクが大き過ぎる」
27歳にもなっては新卒扱いで就職するのは不可能。実務経験が何もないのだから第二新卒というのも無理だ。仕事をするための資格も持っていない。このうえ年齢が高くなってしまったらもうドン詰まりだと思う。