老後を見据えて、いくらお金があれば安心できるのか? 夫婦で2,000万円、3,000万円……5,000万円あればどうでしょう? 十分足りると思う一方で、何かあったときに対応できるのだろうかと不安はつきません。不安を払しょくするための選択肢とは?
あなたの年金だけじゃ足りないのよ…「退職金2,400万円」仕事を辞めた〈65歳夫〉、専業主婦だった〈60歳妻〉の決断に憤慨も「あえなく撃沈」 ※写真はイメージです/PIXTA

老後の想定外の支出に不安感…専業主婦の妻が下した決断は?

「何があるかわからないのに『貯金を取り崩せばいい』と楽観的にはなれない」と浩子さんは続けます。

 

老後に考えられる突発的な支出。まずは「医療費」です。高齢になると、糖尿病や高血圧、関節疾患などの慢性疾患を抱えることが多く、定期的な診察や治療が必要になることもあります。また入院や手術が必要になる場合、保険適用外の治療費や差額ベッド代などが発生することも。さらに介護に関する費用がかさむことも考えられます。

 

「住宅関連の支出」も考慮しておく必要があります。家屋の老朽化に伴い、屋根や外壁、配管などの修繕。さらにはエアコン、給湯器、冷蔵庫、洗濯機などの家電の買い替えや修理費用も、決して少なくありません。

 

また子育てが終わったあとも、子どもや孫の支援を頼まれたり、自身の親が存命であれば介護費用を肩代わりしなければならなかったりと、「予想外の家族のサポート費用」がかさむことも考えられます。

 

次々と老後の想定外の支出について語る浩子さん。それまで楽観的に考えていた浩之さんは、「本当にお金が足りないのでは」と思い始めました。すると浩子さんから、思いもよらない言葉が飛び出します。

 

「だから私、働きに出るわ」

 

唐突なことにうろたえる浩之さん。何とか冷静になり、「せっかくの退職後の生活なのに、どうして働く必要があるんだよ」と怒りをあらわにします。すると「専業主婦としてあなたを支えると決めたけど、本当はずっと働きたかったの。あなたの面倒をみるのはここまで。今度はあなたが私を支えて」と、なんともぐうの音も出ないことをいいます。

 

内閣府『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査』によると、高齢者が働く理由として、経済的な事情が最も多く55.1%。しかし、それだけではありません。「働くのは体によいから」と健康維持を目的に挙げた人が20.1%、「仕事が面白いから」4.8%、「仕事を通じて友人や仲間を得られるから」3.0%と、社会とのつながりを保つためという人もいます。高齢者の就業率は増加の一途をたどり、2024年9月15日時点の65歳以上の就業率は25.2%。65~69歳の就業率は52.0%、70~74歳は34.0%、75歳以上は11.4%となっています。

 

浩之さんを無事説得して、パートに出ることになった浩子さん。月10万円ほどの給与を得られるようになり、浩之さんの年金と合わせて、十分生活できるようになりました。預貯金や退職金を取り崩す必要がないという状況は、大きな安心感につながりました。

 

老後の生活において重要なのは、金銭的な準備だけではありません。現役引退後の第二の人生をどのようなものにしたいか、そのためにどのような選択肢があるのか。必要であれば新たなステップを踏み出すことも、理想を叶えるためには必要です。

 

[参考資料]

総務省『家計調査 家計収支編(2025年平均)』

内閣府『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査』