定年を迎えた佐藤さん(仮名・65歳)は、退職金を手に自由な生活を満喫していました。しかし贅沢な出費や投資の失敗で、気がつけば資産は急速に減少。「これだけあれば安心だろう」と思っていた老後資金も枯渇の危機に陥ってしまいます。定年後の資金管理で後悔しないためには、どんな準備が必要だったのでしょうか。本記事では、佐藤さんの事例とともに「老後資金を守るためのポイント」について、CFPの伊藤寛子氏が解説します。

総資産5,000万円・年金月30万円の65歳元部長、高揚感に包まれながら会社員人生に幕。余生を満喫・収入減への対策も始めて“ご満悦”だったが…わずか3年で「老後資金枯渇」の危機に転落したワケ【CFPの助言】
退職前に必要だった「老後のお金の見える化」
佐藤さんは定年を迎えて退職金を受け取るに当たり、どうしたらこのような事態を避けられたのでしょうか。
長年頑張って働き続け、ようやく迎えたリタイア生活に、やりたかったことを楽しみたい気持ちも理解できます。仕事中心だった現役時代を終え、自由な時間を活かして新しいライフスタイルを築くため、退職したからこそできることや暮らしを楽しむのも大切なことです。
そのために必要なのは、「老後のお金の見える化」をしたうえで、退職金の使い道を事前に計画することです。公的年金等の収入と、生活費、住宅費、医療費・介護費用等、これからかかる可能性のある費用をすべて含めてシミュレーションし、老後のお金の出入りを見える化しておくことが、安心した老後生活を送るためには欠かせません。
退職金を一度に受け取らずに年金形式での受け取りを選択できる場合もあります。ただし、一括受取の場合と税負担が変わるため、慎重な判断が必要です。一定額を定期預金やNISA等で運用し、計画的に取り崩していく対策も考えられます。
そのうえで、ライフプランを元に退職金の使い道を考える、という順番が大事なのです。退職金ほどまとまったお金を受け取る経験は初めてという人がほとんどです。そのため、資産運用や税金対策も含め、ファイナンシャルプランナーなどプロと一緒に計画を立てるのも1つの方法です。
収入が減るタイミングで、支出を見直してコントロールする必要もあります。夫婦でお金の使い方について改めて話し合い、お互いの価値観を共有して使いすぎを防ぎ、無理のない生活を送ることが大事です。
退職後の高揚しているタイミングにまとまった退職金を手にすると、つい普段よりも金銭的な判断が緩みがちです。高額な買い物は「本当に必要か?」と冷静に判断をするため、たとえば1ヵ月待っても本当に欲しいと思うものだけを買うなどの工夫をしてみましょう。
また、せっかくまとまったお金があることから、「そのままにしておいてはもったいない」 「お金を増やしたい」と思うかもしれませんが、退職金を元手に未経験の投資を始めるのはリスクが高く、焦って投資をするのは危険です。
金融機関の営業トークや怪しい投資話には警戒し、自分自身が理解できること、ライフプランに基づいた選択をすることが大事です。何に投資するか、投資金額だけでなく出口戦略まで立てて、計画的に取り崩していくことが老後資金の維持につながります。