「子どもの将来のために」と、聖域になりがちな教育費。しかし、気づけば自分たちの老後資金は用意できないまま……そんな現実に直面する親世代が少なくありません。本記事では、ひとり息子に多くの教育費を投じた結果、老後資金を十分に準備できなかった吉田さん(仮名)61歳の事例をもとに、教育費と老後資金のバランスについて、CFP®の伊藤寛子氏が解説します。

ここまでする必要があったのだろうか…“自慢の我が子”に惜しみなくつぎ込んだ教育費、「総額3,000万円」。年金暮らしが迫る61歳会社員、老後資金が足りない〈苦しい現実〉を前に自問自答【CFPの助言】
親の期待と教育熱で「教育費3,000万円」…老後資金は後回しに
「小さい頃から本を読むのが好きで、放っておくとずっと読み続けていました」「一度ハマると集中して取り組むタイプで、知的好奇心が高いと感じていたんです」
そう語るのは、現在61歳の吉田さん。大学卒業後、大手メーカーに就職し、真面目に勤め上げました。60歳で定年を迎えた後も、同じ職場に再雇用で働いています。
もともと教育熱心だった吉田さん夫婦は、息子が幼稚園の頃から習い事に複数通わせていました。勉強も嫌がらずに取り組み、親のいうことも素直に聞く、静かで真面目なタイプのひとり息子に吉田さんがかけていた期待は高く、「将来の可能性を広げる学習環境を用意してあげたい」と私立中学受験を決意。早くから中学受験のための塾へ通わせ、無事合格。中学、高校と私立に通いました。
大学は本人の意向で私立の理系学部へ。自宅から通うのが難しい距離だったため、1人暮らしをしました。さらに大学院への進学も希望し、計6年間の学費がかかりました。大学院卒業までにかかった教育費の総額はざっと3,000万円。ひとりっ子ということもあり、何とか家計をやりくりしてきました。
しかし、教育費のピークを迎えたのは、吉田さんが50代後半の頃。自分たちの老後資金を貯めるラストスパートの時期と重なっていましたが、教育費にお金をかけ続けた結果、自分たちの老後資金を作る余裕は正直ありませんでした。
「ピーク時の年収は1,000万円近くありましたが、いまは再雇用で月収35万円ちょっと。退職金は教育費が落ち着いたら、