「あと少し、老後資金があれば……」と考えるのは、多くの年金世代に共通する思いです。64歳のAさんも、そんな思いから株式投資に退職金を投じました。「安定した配当収入が得られる」と期待したものの、株価の急落や配当減額に翻弄され、思わぬ結末に。しかし、これは決して他人事ではありません。同じ轍を踏まないためにも、今回は、64歳Aさんの事例をもとに、シニアの投資の注意点について、FPの三原由紀氏が解説します。

(※写真はイメージです/PIXTA)
老後は妻と日本中の温泉巡りを…年金見込額22万円・資産3,000万円の64歳市役所職員「あと数万円あったら」少しの贅沢を求めた結果、待ち受けていた“悪夢のような毎日”に憔悴【FPの助言】
株価下落と配当減額で計画が狂い、さらに売却もできない事態に
投資直後は、株式市場も好調で、Aさんの保有銘柄も順調に値上がりしました。予定通り配当も入り、「これなら安心だ」と確信。リタイア予定の来秋、妻が長年憧れていた有馬温泉への3日間の旅行を計画しました。
「リタイア後は毎月、違う温泉地を巡ろう」と、Aさんは妻と約束したといいます。温泉宿の予約サイトにあるカレンダーには、九州の黒川温泉や東北の秘湯めぐりなど、今後の旅行予定を書き込んでいきました。
ところが、世界経済の減速懸念からインフレ対策の金利上昇が続き、株式市場全体が下落。Aさんが購入した銘柄も軒並み15~20%下落しました。資産価値は一時的に400万円近く減少したのです。
さらに追い打ちをかけるように、投資した5銘柄のうち3銘柄が中間決算で業績悪化を理由に配当減額を発表。当初見込んでいた年間配当は100万円から60万円程度へと4割減る事態となりました。
「株価はいずれ戻るから大丈夫」と自分に言い聞かせていたAさんでしたが、配当金の減額は想定外でした。
「ちょっとした楽しみが削られていく感じが辛い」とAさんは語ります。状況を打開しようと売却を検討しましたが、株価が下落している状態では大きな損失を確定させることになります。
「回復するまで待とう」と考えましたが、株価がいつ回復するかは誰にもわかりません。予定していた旅行も株価や配当次第というのは、Aさん夫妻にとっては大きなストレスとなりました。