生き方の多様化、長寿化、配偶者との死別により今後ますます日本で一人暮らしをする高齢者は増えていくでしょう。一人で暮らしているうちに、家族の知らないところでトラブルに巻き込まれたら……遺産相続にまで影響し、取り返しのつかないことになるかもしれません。本記事ではAさんの事例とともに、一人暮らしの高齢者のトラブルについて、株式会社アイポス代表の森拓哉CFPが解説します。
再婚・家政婦に全財産を…結婚生活の痕跡なし、80代父は死亡。生前馴染みだった店のマスターが明かす「60代後妻の所業」に娘、開いた口がふさがらない【CFPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

開いた口がふさがらない後妻・家政婦の所業

行きつけのお店のマスターは、なんともいえない表情で次のような事情を教えてくれました。

 

・Aさんは奥さんを亡くされてから元気がなかった。それがEさんと出会ってから生き生きしはじめた。

 

・食事や家事の世話をしてもらううちに、AさんとEさんは徐々に男女の関係へと発展していったようだ。

 

・EさんはAさんに老後のことは私が全部やってあげる、Aさんの面倒を見るから結婚しようと言い寄ったらしい。

 

・Aさんもまんざらではない様子で、Eさんと入籍したと聞いている。Aさんは「娘たちもこのことを喜んでくれた」と嬉しそうにいっていた。

 

・そこまでは知っているが、遺言書のことは知らない。高齢になってからの再婚に対してのご家族の反応も気にはなっていたが、喜ぶAさんの姿に余計なことをいう気にはなれなかった。

 

・Aさんも晩年は店から足が遠のいた。LINEでEさんのことを尋ねたが、多くを語ってくれなかった。

 

・察するに、再婚後の夫婦関係は決してよいものではなく、Aさんも自分がなにをしてしまったか薄々と感じとっていたのではないだろうか。しかしあまりに情けないので、実の娘にいいだせなかったのではないか。

 

晩年の父とのLINEによるやりとりまで見せてくれたマスター。一連の話を聞いた娘たちは開いた口がふさがりません。本当のことを知るのは父親Aと家政婦である妻Eさんだけですが、父親Aさんは他界してしまいました。Eさんから真実が語られることはないでしょう。いきさつは推測でしかありません。しかし父親Aさんが再婚した事実、すべての財産を家政婦であり配偶者であるEさんに相続させる公正証書遺言がつくられた事実は変わりません。

 

娘のCさんとDさんは遺留分の請求をすべく、やむをえず弁護士に依頼することになりました。心中穏やかでなかったことはいうまでもありません。

一人暮らしの親、遠方に住む子、疎遠になりがちだが…

自由奔放な父親の世話は遠方に住む娘としてもなかなか気苦労するでしょう。しかし父親の状況を把握し、なにかトラブルに巻き込まれていないか注意を払うことは怠ってはなりません。人間は承認欲求から、普通では想像できないような行動をとってしまうことがあります。一人暮らしで、頻繁に出歩いていたならばどこにどんな誘惑が潜んでいるかはわかりません。

 

今回の事例が結婚詐欺なのかどうかはわかりませんが、事前にそのようなリスクを排除する方法として、婚姻届けの不受理申出をしておくという方法があります。事前に申出を役所に提出しておくことで、原則として、本人が窓口に出向かなければ婚姻届けが受理されなくなります。パートナーから一方的に婚姻届を提出される可能性がある場合などに効果的です。同様に養子縁組についても不受理届を提出することが可能です。

 

今回のケースでは仮に子どもたちから結婚しないように働きかけたとしてもAさんは首を縦には振らなかったでしょう。そもそも婚姻するかどうかは個人の自由意思によるものです。あくまで不受理申出は対策のひとつにしか過ぎませんが、このような対策方法を一つでも多く知っておくことは、トラブルを防ぐ手立てになる可能性があります。逆上されてしまうケースもありますが、本人が冷静になったタイミングなどに気づきとなることもあるのです。

 

一人暮らしをしている親の生活をほったらかしにしておくことは非常に危険です。生前に血の通ったコミュニケーションをとり、老後の具体的な過ごし方について家族間で共有することが重要なのではないでしょうか。

 

 

森 拓哉

株式会社アイポス 繋ぐ相続サロン

代表取締役