老後の生活を支えてくれる公的年金。収入が限られる高齢者にとってはありがたい存在です。しかしルールは複雑。そのため受け取れると思っていた目論見が外れて、「たったこれしか年金がもらえない」という事態に遭遇する人も珍しくありません。
なぜ、年金がこんなに少ないのよ!時給1,320円・パート勤めの70歳女性「想定の25分の1」の年金額に年金事務所と大喧嘩、まさかの顛末 (※写真はイメージです/PIXTA)

遺族年金と老齢年金で月35万円をもらえると思っていたが…

パートの給料だけでも暮らしていけそうですが、一方で年金の受け取りを検討していたといいます。

 

――姉から「年金の繰下げ受給」のことを聞きました。まだ年金を必要としないので、その分、増えればいいなと思い、繰り下げることにしたんです。

 

年金の繰下げは、原則65歳から受給開始の年金を、75歳までの好きなタイミングまで受け取らないというもの。年金の受給開始を1ヵ月遅らせるごとに0.7%ずつ増額となり、最大10年の繰下げで84%も年金を増やすことができるのす。

 

70歳まで繰り下げたら42%と、およそ1.5倍に。「これ以上増えたところで……」と、年金の請求を決めたのです。もうひとつ、姉からは昭さんの分の遺族年金ももらえるはず、と聞かされていました。

 

――夫がもらっていた年金の4分の3がもらえると聞きました。もらわないと損ですよね

 

昭さんが受け取っていた年金は月17万円ほど。その4分の3だから12.75万円ほどもらえるはず。そして恵子さんが受け取れる年金は月16万円の1.42倍で22.72万円。合わせて35万円近くも。そこに毎月の給与も合わさると……十分すぎる金額。「頑張って働いてきてよかった……」。そんな充実感をまといながら、年金の請求手続きをした恵子さん。しかし知らされた年金受取額は予想をはるかに下回り、遺族年金5,000円と恵子さんの老齢年金合わせて16万円を合わせて16万5,000円。

 

恵子さん、あまりのことに最寄りの年金事務所に駆け付け、「なぜ年金がこんなに少ないのよ!」「騙されないわよ」と職員に詰めよったといいます。しかし、同じようなことがたびたびあるのでしょう。職員は落ち着いていました。「間違いではありません。順を追って説明しますね」と、あまりに冷静に対応されたので、一気にクールダウンしたといいます。

 

まず年金の繰下げは、他の公的年金の受給権が発生した時点で増額率は固定されます。恵子さん、そもそも年金の繰下げはできなかったわけです。続いて遺族年金。恵子さんが受け取れるのは遺族厚生年金。厚生年金部分の4分の3であって、基礎年金を合わせた額ではないので注意が必要です。また65歳以上だと「死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額」と「死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の額の2分の1の額と自身の老齢厚生年金の額の2分の1の額を合算した額」を比較し、高いほうが遺族厚生年金の額となります。結果、遺族年金は9.7万円となるのです。

 

さらに65歳以上で遺族厚生年金と老齢厚生年金を受け取れる場合、老齢厚生年金は全額支給となり、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止となるというルールがあります。恵子さんの年金のうち、老齢厚生年金は9.2万円。つまり差額である5,000円が支給されるということになります。

 

12.75万円だと思っていた遺族年金がわずか5,000円。当初の考えていた金額のわずか25分の1。さらに年金の受取額は総額35万円だと思っていたのにその半分以下。繰下げ受給の効果はゼロ……。「あまりに無知でした」と赤面するしかなかったといいます。

 

[参考資料]

日本年金機構『年金の繰下げ受給』

日本年金機構『遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)』