会社員の松井さん(仮名・64歳)はまもなく退職を迎えます。夫婦でつつましく暮らせば老後資金は足りそうだと想定していました。しかし、松井さん夫妻は40代の息子の自立問題を抱えており、さらに追い打ちをかけるように起こった事態に、平穏な老後の計画が崩れ去ってしまいました。子どもの経済的自立のために親としてできることは何なのか、CFPの伊藤寛子氏が解説します。

年金見込額月27万円・貯蓄1,500万円で静かに暮らすはずだった64歳元会社員、氷河期世代・不遇の40代息子の「新しい仕事が見つかった」を発端に起きた〈とんでもない事態〉に絶句【CFPの助言】
定年間近だが、生活の支援が必要な40代息子への不安
会社員の松井さん(仮名・64歳)は退職を目前に控え、まもなく年金暮らしが始まります。60歳の定年まで勤めた会社で再雇用で仕事を続け、65歳から夫婦で月27万円の年金を受け取る予定です。
60歳の定年時に受け取った退職金を使い住宅ローンを完済し、現在の貯蓄は約1,500万円あります。贅沢をしなければなんとか年金生活でもやっていけそうだと思っていました。
ところが、もうすぐ退職というタイミングで老後危機を迎えることになったのです。
松井さん夫妻には40代になる息子がいます。現在40代前半の世代は、「就職氷河期世代」として厳しい雇用環境で社会人をスタートしました。松井さんの息子も新卒での就職に失敗し、その後も正社員になれず、非正規雇用・低収入の仕事にしか就けません。
また、対人関係が得意ではないため、新しい職場の環境や人間関係になかなか馴染めず、すぐに辞めてしまうことも多々ありました。仕事が長続きしないため、収入もキャリアも安定しません。
1人暮らしをしていた期間もありましたが、収入が不安定で続けられず、実家に戻ってきました。食費や光熱費、携帯電話料金なども父親に面倒を見てもらっている状態です。息子は仕事をしたとしても収入が少なく、貯金もないため、一切家にお金を入れていません。
それでも、これまでは松井さんも働いていたので、息子の負担分も含めた生活費を賄うことができていました。
ところが、退職後は収入が年金のみとなり、今よりも手取り額が減ります。何とか日々の生活費は年金額の範囲内で賄えそうですが、なにか大きな支出や介護にかかるお金などが必要になれば、貯蓄を切り崩すことになります。
思いもかけないトラブルが起きたのは、いつまで自分たち親が息子を支え続けるのか、このままで息子は大丈夫なのだろうかと心配していた矢先のことでした。