マイナンバーカードは人口に対する保有枚数率が8割近くとなりますが、日常の利用シーンが限られるため利用率や携行率は高くありません。こうしたなか、活用推進策の1つとして民間事業者での利用の活発化、特に、「転売防止策」としての役割が模索されています。本稿では、ニッセイ基礎研究所の河岸秀叔氏がエンターテイメント領域でのマイナンバーカードの活用について詳しく解説します。
推し活時代の転売対策として、マイナンバーカードに集まる期待 (写真はイメージです/PIXTA)

3.転売対策とマイナンバーカードの機能は、相性が良い

転売の課題の1つに、買い占めがある。とりわけ、ネット販売は買い占めの垣根が低い。例えば、1人で架空名義のフリーメールを複数作成しチケットを買い占めるケースが指摘される(奥窪2024)。

 

また近年、自動botと呼ばれる高速自動購入プログラムを駆使して買い占める人々も存在する。このような買い占めが横行すればするほど、他の希望者が購入しづらくなる。

 

もう1つの転売の課題として、本人確認の難しさがある。チケットの場合、特に入場時に、チケットの名義人と入場者が同一と証明してもらう必要もある。チケット不正転売禁止法では、入場者と名義人が同一か、興行主に対して確認するよう努力義務を課(法5条1項)しているが、スムーズな入場を妨げるとの指摘もあり確認の徹底には障壁が高い10

 

このような課題をうけ、デジタル省は2023年からマイナンバーカードを活用した転売防止にむけた実証実験を開始した。この実験は、買い占めや本人確認などにおける、マイナンバーカードの活用可能性の検証を大きな目的とするものだ。

 

マイナンバーカードには電子証明書が備わっており、これを用いて対面・オンライン上のいずれにおいても本人であることを証明することができる11。また、マイナンバーカードは対面での顔認証にも使用できる。

 

こうした機能を活かし、様々なイベントで実証実験が行われている。例えば、ハロー! プロジェクトの音楽ライブでは、一部のチケット申込時に、マイナンバーカードを用いる「デジタル認証アプリ」を用いて、オンラインで本人確認を行う予定だ(2025年1月29日時点)12。これにより1ファン1回の申込を担保し、買い占めを防ぐ。

 

また、2024年11月の明治安田J1リーグの試合会場では、マイナンバーカードと顔認証を用いた本人確認を実施し、なりすましや転売の防止に資するかを検証する実験が行われた13

 

10経済産業省「音楽産業の新たな時代に即したビジネスモデルの在り方に関する報告書」2024-07

11河岸秀叔「地方自治体が進めるマイナンバーカード活用の意義と留意点を考える」(ニッセイ基礎研究所 2024-12-06)

12ハロー! プロジェクトHP「『Hello! Project ひなフェス 2025』マイナンバーカードを活用した特典付きチケット先行抽選受付のお知らせ」2025-01-29

13デジタル庁「平デジタル大臣、石川デジタル副大臣が『Jリーグ試合会場におけるマイナンバーカード活用に関する実証実験』を視察しました」2024-11-12