
こんなに優雅でいいのかな。海の見える高級老人ホームに入居したが…
今後のことについて検討に検討を重ねて辿り着いたのが、三浦さんが導き出した答えが、自宅も売却して老人ホームに入居するというもの。
――ちょうど新聞に「高級老人ホーム」の広告が出ていたんですが、高級ホテルみたいでビックリしました。私たちが若かったころの老人ホームは、姥捨て山のような、仕方がなく入るところというイメージが強いものでした。こんなにおしゃれで豪華なところであれば、ぜひ入りたいと思うようになったんです
それから高級老人ホーム探しが始まりました。そこで見つけたのが、太平洋をのぞむ自立型有料老人ホーム。支援や介護を必要としないことが入居条件となる施設で、万一、介護が必要になった際には、系列の介護付き有料老人ホームに入居できるというホームでした。広いガーデンには、家庭菜園や花壇、遊歩道も。園芸サークルがあり、ガーデニングが趣味の三浦さんにはぴったり。
気になる価格は、初期費用が4,500万円。月額費用は25万円。三浦さんが受け取る年金は月15万円。手取りにすると月12万円強で、月額費用に含まれていない雑費も含めると、月15万円程度を貯蓄から取り崩す必要がありそうです。
算盤を弾いた結果、20年、三浦さんが95歳になるまでは費用懸念がないことがわかりました。ただしそれは自宅を売却した場合のシミュレーション。
――海の目の前で、優雅に毎日過ごすことができる……人生の最後くらい贅沢をしたって、バチなんてあたりませんよ
こうして老人ホームの入居手続きとともに、自宅の売却手続きを進めた三浦さん。ホームへの入居から2ヵ月後、自宅の売却が決定。無事、20年は高級老人ホームでの優雅な生活が確約されました。
老人ホームでの日々は想像以上だったといいます。
――部屋の簡単な掃除くらいはするけど、基本的に家事いらず。本当にホテルで暮らしているような毎日を送ることができます。結婚して以来(夫は5年前に逝去)、ずっと家事をしてきた人生だったので、「本当にこんなに素敵な暮らしをしていいのかな」と、申し訳ないほど幸せです
ところが事態は急転。運営会社が業績悪化を理由にホームを売却。運営会社が変わると、サービスの質が一気に低下。清掃が行き届かず、以前より汚れやゴミが目立つようになりました。食事も明らかにグレードダウン。これまでは美味しい食事が何よりもアピールポイントだったのに、これであれば自分で作ったほうがよっぽど美味しく作ることができます。嫌気が差した三浦さんのホームでの友人は「家に戻るわ」と次々と退居。ホームに親しい友人がひとりもいなくなり、孤独を感じるようになりました。
――近いうちにこのホームを取り壊して、マンションを建てるなんて噂も聞こえてきます。死ぬまでゆっくりと過ごせると思っていたのに
三浦さん自身も、一度自宅に戻り、その後の暮らし方をゆっくりと考えたいところですが……すでに自宅は売却済み。戻る家はなく、絶望でしかありません。
――ホームにいながら転居先を探すというのも大変。そんなとき自宅があれば、と思ってしまうんです。そもそも自宅を売却して老人ホームに入居なんて……今思えば、バカなことをしたなと後悔しています
老人ホームを退去した人からは、自宅を売却してしまったことを後悔する声が聞かれます。老人ホームに入れば安心というわけではなく、退居するしかないという状況に直面するときも。そのとき、戻る自宅があるか/ないかは大違い。自宅の売却金で老人ホームへの入居を考えている人は、熟考に熟考を重ねる必要があります。
[参考資料]