新卒でドラッグストアに就職し、淡々と働いていた大辻さん(仮名・29歳)は、夜中点けたテレビに映るアイドルをみて、人生が変わりました……。ルポライターである増田明利氏の著書『今日、借金を背負った 借金で人生が狂った11人の物語』(彩図社)より、人生の一部を“推し活”にささげた“とある男性”の末路を紹介します。

「自分が助けてあげなくては」と思っちゃうんです…“推し活”に人生をささげた月収26万円・29歳サラリーマンの末路【推し活ビジネスの実態】
借金総額250万円…大辻さんの単調な暮らしに光を灯した「アイドル」
大辻則雄(29歳)
出身地/神奈川県
現住所/東京都狛江市
職業/会社員
収入/月収26万円
家賃/5万2,000円
主な借金/銀行カードローン2社150万円、クレジットカードキャッシング3社60万円リボ払い40万円、合計250万円
借金の残高/約60万円
月々の返済額/3万円
「借金の総額ですか? 全部合わせると250万円まで借りちゃいましたね。今はもう新たな借金はなく、ひたすら返済していますけど」訥々(とつとつ)と話す大辻さんが多額の債務を背負ったのはアイドルにハマったから。
「握手会や写真撮影会に参加するため、CDやイメージDVDを買うため、コンサートに行くためなどに借りた借金が積もり積もって250万円まで大きくなってしまいました。本当に何をやっていたんだと自己嫌悪に陥ります」
大辻さんは2011年に大学を卒業してドラッグストアに就職。登録販売者の資格も取り、都内の大型店舗で接客、商品管理などの仕事に従事していた。「今もそうなんですが、特に仕事が好きだとか仕事に燃えているということはないんです。言われたこと、やらなければならないことは淡々とこなす。こんな感じですね」
人付き合いは得意ではなく、人との関わりも薄い。仕事が終わってアパートに帰るとゲームをやったりパソコンでネットサーフィンをしたりするぐらい。友人と飲みに行くとか、何か趣味があってそれを楽しむということもなかった。
そんな単調な生活にアイドルはスーッと入ってきた。
「夜中にトイレに行った後、寝付けなくなってテレビを点けたんです。そしたらAKBの子たちが出ている深夜バラエティーをやっていて。昔からそういうものに興味はなかったのですがAという子を見たら何かドキドキしちゃって」
まだその他大勢扱いだから有名ではないが清楚な感じ。受け答えがトンチンカンなところも初々しさがあってすっかり気に入ってしまった。これで借金生活へのスタートラインに立ってしまった。
「2週間後には秋葉原に行っていましたね」
目的はDVDを買うため。だがDVDは真の目的ではなかった、特典としてDVDに付いてくる整理券が欲しかったからだ。
好きなアイドルとの“至福の時間”を得るためにお金をつぎ込む
アイドルグループがイメージDVDや写真集を発売すると、それを記念してイベントが開かれる。内容はそれぞれ異なるがトークショー、写真撮影、握手会、サイン会など。ミニライブが行われる場合もある。
「こういうイベントに参加するには発売記念の該当商品を買い、特典として付いてくる整理券を手に入れなければならないんです」
大辻さんのお気に入りの子はDVD本編ではメインメンバーの後ろでダンスを披露する程度。映っているのもほんの数十秒だが、好きな子がキラキラしている姿をどうしても観たかった。
好きなアイドルと生で会える。肉声を聴ける。握手できるというのは何物にも代え難い至福の時間だった。