新卒でドラッグストアに就職し、淡々と働いていた大辻さん(仮名・29歳)は、夜中点けたテレビに映るアイドルをみて、人生が変わりました……。ルポライターである増田明利氏の著書『今日、借金を背負った 借金で人生が狂った11人の物語』(彩図社)より、人生の一部を“推し活”にささげた“とある男性”の末路を紹介します。

「自分が助けてあげなくては」と思っちゃうんです…“推し活”に人生をささげた月収26万円・29歳サラリーマンの末路【推し活ビジネスの実態】
大好きな相手と“お金を出した分だけ触れ合える”という現実
ただし、これはお金を出した人だけに与えられるもの。お金を出した分だけ触れ合えるということに気付いていなかった。
ステージから「これからも応援してください」と微笑まれ視線が合ったらもうイチコロ。次々に発売されるDVDや写真集、キャラクター商品などを買うためにどんどんお金が出ていくようになった。
「給料はあまり良くなくてね。それでも少しばかりの貯金はあったのですが、休みの日は連続で劇場通いしたりコンサートに行ったりしたので1年ちょっとでほぼなくなってしまいましたね」
それでもアイドル熱は冷めることがなかった。現実の生活で関わる女性は自分の母親か姉、さもなくば勤務先の女性社員やパートさん。どれも理想の女性ではない。
ところがアイドルは容姿や話し方などが自分の好みに近い。そのうえいつもニコニコしていて可愛くて優しい。
「握手会で優しく声を掛けられたり、可愛いパフォーマンスを見せてくれたりすると普通の女性には興味がなくなります」
“自分のお金”だと錯覚してしまう…「銀行ローン」のカラクリ
アイドル熱は益々上がり、各地で開催されるイベントやコンサートにもお金を注ぎ込むようになっていく。
「1ヵ月の間に広島、仙台、福岡で開催されるライブに通ったりしましたね」
往復の交通費、滞在費、チケット代、限定グッズ代などを含めると1ヵ月で使ったお金は15万円以上だった。
「給料は手取りで22万円ぐらいでした。家賃とその他の固定費が8万円。自炊なんてしないので食費に6万円は使っていた。残りは8万円あるかないかだったので借りちゃったんです」
新幹線や飛行機のチケット代、ホテル代はクレジットカードで支払ったが、銀行口座の残高はそれ以下。月末に決済できないから銀行でローン用のカードを作ることにした。
「30分もしないで専用のカードが出てきて。限度額は100万円でした」
このお金は借りたものなのだが、銀行にある専用機にカードを入れると現金が出てくる。だから自分のお金のように錯覚してしまった。
「総選挙の投票券が付いたCDも爆買いしました」
自分の推しの子の順位が少しでも上に行けるようにと投票券が付いたCDを400枚も大量購入。これだけで65万円も散財した。
「投票券はネットでも売買されていまして。1枚700円で100枚買いました」
100万円借りても何だかんだで90万円近い出費。このときの借金は毎月払いと冬のボーナスで40万円ほど返し、借金は60万円を切ったが、翌年も投票券付きのCDを大量購入するため新規の借入れをしてしまい、借金はまた100万円に戻ってしまった。