新卒でドラッグストアに就職し、淡々と働いていた大辻さん(仮名・29歳)は、夜中点けたテレビに映るアイドルをみて、人生が変わりました……。ルポライターである増田明利氏の著書『今日、借金を背負った 借金で人生が狂った11人の物語』(彩図社)より、人生の一部を“推し活”にささげた“とある男性”の末路を紹介します。

「自分が助けてあげなくては」と思っちゃうんです…“推し活”に人生をささげた月収26万円・29歳サラリーマンの末路【推し活ビジネスの実態】
大辻さんがここまで「熱中」したワケ
そこまで熱中したのは、自分が育てたという気持ちになれたから。
「歌もダンスも、もうひとつだったのがキレッキレになって、可愛い子から綺麗な人になっていく。そういう成長を間近で見られるのが喜びでした」
TVで生中継される順位発表で前年より1ランクでも上になったら「よし、やった!」と小躍りした。
「総選挙では得票数も発表されるんです。で、すぐ下の子との得票数が300票ぐらいの僅差だったら、俺が500票入れたから上に行けたんだと満足するんです。逆にひとつ上の子との差もわずかだったら、もうちょっと頑張っていたらなあとなる」
ファン仲間の影響で「マイナーアイドル」にハマる
他にやりたいこと、面白いと思えることがないからアイドルだけが楽しみ。足繁くイベント会場や握手会に通っていると同好の人たちと親しくなったり会話するようになる。これも楽しいことだった。
「普段は店長や同僚と挨拶する程度、仕事に関する話しかしません。仕事に行って帰ってテレビを観る。あとは寝るだけ。だから共通の話題で盛り上がれるファン同士の交流も楽しかった」
世間一般の人はオタク的な人や、いい歳をしてアイドルに夢中になっている人に対して冷ややかだが、ファンはファンに優しい。
親しくなったファン仲間に連れられて別のマイナーアイドルのミニライブに行ったり、メイド喫茶に通うようになると更に出費が増えていくようになる。
「テレビに出ているメジャーアイドルはやっぱり高嶺の花。だけどまだアイドル修行中の子は距離感が近い。これがいいんです」
有名ではないので握手会の参加者は少ない。写真撮影会ではツーショットの撮影もOK。腕を組んでくれる子もいた。親しくなったファン仲間はマネージャーとも顔見知りらしく、ある日の公演終了後、楽屋に連れていってくれた。
「グループのリーダーの子に、こちら僕の友だちの大辻君。これからもちょくちょく来るので覚えておいてあげてねって紹介してもらいまして。もう心臓はバクバクだった」
握手した右手を「頑張るのでこれからも応援してくださいね」と両手で包まれたときは昇天しそうだった。